ご注文は進捗ですか?

気になったことを結論が出ないまま置いたりしています。ときどき進捗も置く。

長者番付について調べてみた。

こんばんは。
今これを書いている中の人は空きっ腹にワインを入れて悪酔いをしています。
❝疲れている+寝不足+空きっ腹+ワイン+シーシャ=強烈な吐き気が数時間❞という黄金則を身を以て学びました。
ちなみにこんな感じのところでシーシャ吸ってました。静かでWi-Fiあって,ドリンクもフレーバもいい感じでした。今度はもっと体調万全のときに行こう…

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そんなこんなでフラフラしていた帰り道に,ふと長者番付に関して興味がわいたので調べてみました。暇なので。
完全な思いつきでスタートしています…暇なので

そもそも長者番付とは?

1947年から2005年まで施行されていた「高額納税者公示制度」のこと。要は日本の金持ちを公開する制度
1982年度までは収入額を,83年度以降は納税額をカタカナ氏名と住所ともに公開していました。

制度趣旨

脱税の牽制。
高額納税者公開処刑客観的なチェックに晒すことで,脱税等への牽制とすることを目指していました。
そのため,脱税発見者には発見額に応じた報奨金を支払う第三者通報制度が設けられていましたが,しかし,というか案の定,通報の多くが怨恨や報復などを目的としたものであるとの指摘を受けて第三者通報制度は54年に廃止されました。「日本人は誠実で優しい」はずなのに

法令

この制度は所得税法233条・法人税法152条・相続税法49条に基づいていました。
ちなみにその条文がこれ。
(e-govなどには載っていなかったので個人サイトからお借りしました。
中居君に学ぶ「長者番付に載らない方法」 | isologue

所得税法 第五編雑則
第二百三十三条(申告書の公示)
 税務署長は、その年分の確定申告書又は当該申告書に係る修正申告書に記載された第百二十条第一項第三号(確定所得申告に係る所得税額)(第百六十六条(非居住者に対する準用)において準用する場合を含む。)に掲げる所得税の額(第九十五条(外国税額控除)の規定を適用しないで計算した場合の同号に掲げる所得税の額とし、修正申告書については、その申告後の当該所得税の額とする。以下この条において同じ。)が千万円を超える者について、財務省令で定めるところにより、その者の氏名及び住所(国内に住所がない場合には、居所)、これらの申告書に記載された当該所得税の額を公示しなければならない。

法人税法 第四編雑則
第百五十二条(申告書の公示)
 税務署長は、確定申告書、連結確定申告書又はこれらの申告書に係る修正申告書に記載された各事業年度の所得の金額又は各連結事業年度の連結所得の金額(修正申告書については、その申告後の当該所得の金額又は連結所得の金額)が二千万円(当該事業年度又は連結事業年度が六月を超える場合には、四千万円)を超える法人(連結事業年度の連結所得の金額については、連結確定申告書又は当該連結確定申告書に係る修正申告書を提出した連結親法人及び連結子法人。以下この条において同じ。)について、財務省令で定めるところにより、その法人の名称、これらの申告書に記載された当該所得の金額又は連結所得の金額その他の事項を公示しなければならない。

相続税法 第七章雑則
第四十九条(申告書の公示)
 税務署長は、相続税に係る申告書の提出があつた場合において、次に掲げる場合に該当するときは、当該申告書の提出があつた日から四月以内に、当該申告書の記載に従い、その者の氏名、納税地及び課税価格を少なくとも一月間公示しなければならない。
一 当該申告書に記載された課税価格が二億円を超える場合
二 当該申告書に添付された第二十七条第四項(第二十九条第二項において準用する場合を含む。)に規定する明細書に記載された被相続人の死亡の時における財産(当該被相続人が贈与をした財産で第二十一条の九第三項の規定の適用を受けるものを含む。)の価額(債務の金額がある場合には、当該金額を控除した金額)が五億円を超える場合
2 税務署長は、贈与税に係る申告書の提出があつた場合において、当該申告書に記載された課税価格が四千万円を超えるときは、当該申告書の提出があつた日から四月以内に、当該申告書の記載に従い、その者の氏名、納税地及び課税価格を少なくとも一月間公示しなければならない。

廃止に至った理由

金持ち公開制度である高額納税者公示制度が本来の趣旨とは異なる使われ方をしていたこと,そして公開された納税者にとってリスクになっていたからです。本来の趣旨は「公開することにより脱税を牽制する」ことにあったわけですが,「どこの誰がどれくらいのカネをもっているのか」ということが白日の下に晒されるこの制度ではプライバシーのへったくれもなく,殺人事件にまで発展するケースもありました。その結果,財務省は法令の改正を行います。2006年に所得税法の一部を改正する等の法律(「法律第十号(平一八・三・三一)所得税法等の一部を改正する等の法律」)でプライバシーのへったくれもない悪条文233条は削除されました。財務省の担当者によれば,法改正による233条削除の意図は次の通りです。

  • 三者の監視による牽制的効果の発揮を目的として設けられたが、目的外に利用されている面がある
  • 犯罪や嫌がらせの 誘発の原因となっているなど種々の指摘がなある
  • 個人情報保護法の施行を契機に、行政機関が保有する情報について一層適正な取扱いが求められている

このような背景を踏まえて削除に至ったと説明されています(旧所法233、旧 所規106、改正所令附則22、旧負担軽減措置法施行令7)。
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2006/f1808betu.pdf(215頁以下)

…妥当&妥当ですね。長者番付は氏名と住所まで公開されるので、誘拐などの格好のターゲットになるわけです。そうすると、脱税の牽制という目的よりも金持ちを守るべきということになり、公示する大義名分が失われてしまうということになります。廃止されて当然です。
また、本来の趣旨と異なる使われ方をしていたという点に関してですが、金持ちに対する攻撃手段としてだけではなく、金持ち側も趣旨とは異なる使い方をしていたようです。というのも、金持ちが自身の氏名や住所の公開を避けるために「3月31日までに申告されている分が公示対象」というルールの裏をかいて、3月31日までの申告では過少申告をしておき、4月以降に修正申告をするようになりました。当然、ペナルティとして延滞税を課されることになるわけですが、それでも自身の個人情報を公開されたくないという金持ちは「良心的な公示逃れ」をしていました。こうなると法の趣旨は完全に崩壊するわけです。「公開することによる脱税牽制」を意図していたのに、その公開を避けるため苦肉の策として、修正申告をするとはいえ脱税をするようになるというなんとも皮肉な結果を招いてしまいました。延滞税を課す国税局どういう神経しているんだ…
このような悲しい帰結を迎え、晴れてこの悪しき条文は消し去られることになりました。
ちなみに判例には、良心的な公示逃れをした者が後日の税務調査の有無にかかわらず修正申告をすることが推認できる場合には、過少申告加算税を課すことはできないとしたものがあります。(広島高裁松江支部平成14年9月27日判決)
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/297/015297_hanrei.pdf

長くなりそうなので、いったんここで切ります。
次回は、公示制度の始まりについて調べてみたことを書きます。ちなみに所得税法のみならず,法人税法相続税法についても当該規定は消えました。
なんでこんなことを調べているのだろうか…