ご注文は進捗ですか?

気になったことを結論が出ないまま置いたりしています。ときどき進捗も置く。

「経済を回す」の「回す」を調べ回す回。

こんばんは。
前回のエントリで,

書きながら思ったのですが、「経済を回す」というフレーズ、なにゆえ「回す」というのか。回すってなんだよ。べつに転がすでも膨らませるでもよくないか? さてはこの言葉を生み出したのは天動説派か?

と書いていました。あの時は完全な思いつきで書いており,瑣末なことにしか思っていなかったのですが,しばらく経って急に気になりだしたので,ちょっと調べてみました。天動説派云々については最後に書きます。あとついでに「オタク」の変動も見ました。
前回の記事はこちら。
make-a-progress.hatenadiary.jp

疑問

「経済を回す」の「回す」って何?
より正確言うと,なぜ「回す」を使っているのか?
経済を活性化させるという意味なら,「膨らませる」「潤わす」とかでもよくない?

予想

【予想1】「金は天下の回りもの」という言葉が由来
【予想2】好景気による忙しさに「目を回していた」ことが由来

結論

分からん。
なぜ「回る」を使っているのか明確な答えにはたどり着きませんでした。
が、しかし、「経済循環」「景気循環」という考え方があり、そこから来ているような感じがしました。

「経済循環」とは?

生産から消費への流れのこと。あるいはそれに伴う貨幣の流れのこと。

景気循環」とは?

景気の良し悪しの変動のこと。いわゆる「景気の波」を指す。

なんというか、ここら辺から推測するに、こんな感じで「回す」を使い始めたのかもしれませんね。
「不景気で厳しいねぇ…」
「いや必ず好景気が巡ってくるよ。なんたって景気にはサイクルがあるからね!」
「じゃあお客さんにお金をいっぱい使ってもらって景気を回してもらわんとね。オラ買えコラ」
多少無理やりになりましたが、適当な妄想です。というか「巡る」「サイクル」という表現がすでに「回す」の意味を含んでいましたね…
なぜ「回す」を使っているのかは分かりませんでしたが,「金は天下の回りもの」に代表されるようにお金や経済に対して「循環するもの」という意識が古くからあるようだということは分かりました。

ついでなので「経済」の語源も書いておきます。

「経済」の由来

「経済」という言葉は、「経世済民」という言葉を略したものです。「経国済民」とも言います。意味は、「国を治めて民衆を救う」です。

中国での「経世済民」と「経済」(古典的用法)

経世済民」は古代中国の西晋東晋時代の道教学者葛洪の著作『抱朴子』に出現するところが始まりのようです。中国の典拠における「経世済民」は政治など国家統治に関する意味であり、いまのようにeconomyの意味では使われていませんでした。ちなみに『抱朴子』は道教に関する修行書のようなもので、「修行や丹の調合により仙術を身につけられる。祈祷とか他力本願だからダメ。」ということが書いてあったりするそうです。彼は金丹(硫化水銀と金液を原材料にしたもの)を摂取すれば永遠の命を得ることができると説きましたが、一方で調合は困難極まるので、別のいくつかの方法を併用することで寿命を延ばすことを目指しました。それが瞑想などの修行です。命=永遠が無理なら、命→永遠にすればいいという発想ですね。一見すると中二病ここに極まれりですが、彼は神仙思想などに大きな影響を与えた偉大な人物です。

江戸後期の日本と「経済」(economyとしての「経済」)

元々日本では「経国」「済民」などと別々に使われていましたが、明朝末期から清朝初期にかけて中国の考証学者の間で盛んになっていた「経世致用の学」に影響を受けて、日本国内でも「経世済民」として一つの概念として用いられるようになりました。「経世致用の学」というのは、「学問は役立たなければならない」という実学重視・実践重視の考え方のことです。そして、これに影響を受けた日本でも同じ議論が流行り、「経世論」「経世済民論」として盛り上がります。この議論の中で、太宰春台という人物がその著作『經濟録』(18世紀前半)の中で「経済」をeconomyとしての意味のほか、統治や行政など政治的な意味も含めた幅広い意味で用いていました。この時点ではまだ古典的用法として用いられていたといえるでしょう。
しかし、江戸後期(18世紀後半)には貨幣経済の浸透を背景に「経済」は「生産・消費・売買などの活動」という意味合いが濃くなっていきました。そして、イギリスの古典派経済学の文献が日本に流入してくると、いくつかの段階を経て、「経済」はeconomyの訳語として用いられるようになりました。ちなみに古典派経済学は新古典派経済学が誕生する18世紀後半まで発展したので、当時では先端的学問といえるかもしれませんね。話を戻すと、economyに対する訳語として「経済」が用いられて定着したので、古典的なニュアンスの「政治・統治」などの意味は消えていきました。

そして逆輸入へ

日本でeconomyの対訳として定着した「経済」は「経済」の生みの親である中国に伝わり、中国や周辺のアジア圏にもeconomyとしての「経済」が定着するようになりました。つまり、今日の「経済」は日本発祥という意外な経緯がありました。

ちなみに

天下のGoogleトレンドで「経済を回す」を見てみたところ、こんな感じになりました。2004年までしか見られないので何とも言えないですが、これを見る限りでは比較的最近使われるようになった言葉なのかもしれないですね。「オタクが経済を回す」なんていう言葉も割と最近になってからですよね。
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最初の山は2007年2月です。この年の9月にはリーマン・ショックが起きましたが、なぜに2月に山を迎えたのかは謎です。そして、ピークは2011年4月でした。このころに何があったのかというと、前月の3月に東日本大震災があり、のちに1ドル76円25銭という超円高が記録されました。さらに前々月2月には中国が日本を抜いてGDP世界第2位になり、また3DSが販売されました。
おそらくは大震災による相場への影響や1次・2次産業への壊滅的影響に関する懸念を受けて、「食べて応援」「買って応援」という流れの中で「経済を回す」が発せられたのでしょう。

「オタク」の変動

同じくトレンドで「オタク」を調べたところ、こんな感じになりました。ピークは2005年8月です。…8月?8月とオタクと言えばあれしかない。そう、コミケです。と思って参加者数などを見たのですが、過去最高を記録したとかそういうことは特にありませんでした。参考までにコミケの参加者数の推移も載せておきます。2005年8月はC68です。(赤い矢印)
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www.comiket.co.jp
2008年以前で見れば確かに歴代2位タイの参加者48万人ですが、それ自体はトレンドでピークを迎える理由になり得ないので、何か要因があるはずなんですけどね…「電車男」とか「ローゼンメイデン」の影響かなとか思ったものの、確証は得られずでした。8月に入る3話・4話には水銀燈翠星石の回になるので。オタクは水銀燈翠星石を好みがち
そしてもはや完全に関係ありませんが、「コミケ」のトレンド変動がこちらです。
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周期的に上がっており、8月と12月が山になります。わかりやすい。
そしてピークは2014年8月です。C86の時ですね。

天動説派について

誰が「経済を回す」という言葉を生み出したのかわからない以上、天動説派か否か断定することはできませんし、断定することはおろか天動説派か否かを検討することに何ら意義はありません。なので、「経世済民」という言葉を生み出した古代中国の宇宙観について書いておきます。

古代中国の宇宙観

天動説です。ただ、いわゆる天動説でおなじみのプトレマイオスの考え方とは多少異なります。古代中国の宇宙観には、蓋天(がいてん)説と渾天(こうてん)説があります。

  • 蓋天説

蓋天説は、天と地は平行になっていて、天は北極を中心に回転していると考えました。こんな感じです。のちに、天はドーム状であるとされました。
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on-linetrpgsite.sakura.ne.jp

  • 渾天説

渾天説は、天を卵の殻に、地を黄身に例えたものと思ってください。殻、つまり天は回転しており星はこの殻に付着しているので見えたり見えなくなったりするのだと考えました。こんな感じです。
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http://www.oocities.org/volkou/astro/A7/A7.htm

今回はここまで。疲れた。