ご注文は進捗ですか?

気になったことを結論が出ないまま置いたりしています。ときどき進捗も置く。

冬なので寒さと尿意の関係を調べてみた。

ゐゑーーーーーゐ!(しばらくは定番のあいさつこれにしようと思う。アイドル気取り厨

こんばんは。今回は寒さと尿意の関係を調べてみました。
一度は抱いたことのある疑問であり、答えらしきものを一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
深く調べたことはないので、ちょっと調べてみました。
ついさっき実体験をして改めて「なんでかな」と気になっただけなんですが…。
ある一定の気温(又は体感温度)を境にお手洗いに行く回数が急増するとかあったらおもしろいですよね*1。誰か統計調査してないかな…
結論だけ知りたい人はこれを読んでください。一問一答形式で面白いです。
http://s-igaku.umin.jp/DATA/64_01/64_01_01.pdf

ググる

ググる」はもはや現代人のたしなみですね。ということで、現代人らしくググるとこんなことが書かれていました。

信州大学医学部泌尿器科学教室にて、精力的な研究が行われています。ラットを室温28度から4度の冷所環境へ移動した場合、はじめは頻尿が誘発され、その後は徐々に頻尿が改善し、再び28度の室温に戻すと正常な排尿サイクルに戻る…

blog.goo.ne.jp

なにやら面白そうな予感がしてきました。さらにこんなことまで書いてありました。

この「寒冷刺激による頻尿」は皮膚(主に背中や下肢、下腹部など)に存在するセンサーを介すること[2]、閉経ラットモデルではこのセンサーが異常増加していること[3]も明らかにされました。

これは絶対面白い話だと確信しました。こんな面白い話をこのまま終わらせるわけにはいかないので、元ページの脚注から論文に飛びます。元ページで論文のネタバレしているので調べなおす意味無くない?

寒いところで膀胱が反応しがち問題

早速元ページ脚注[1]からリンク先に飛びます。少し古めの2008年のものです。
これ以降は、医学的知識のない人間が医学論文を日本語に訳しつつ読んでまとめたものです。誤り等があると思いますので、訳しミスや内容的誤りがあればガンガン指摘してください。
先にいっておくと、この後何度も出てくる「レシニフェラトキシン感受神経」が正しい訳語なのかはわかりません。「resiniferatoxin-sensitive nerves」の直訳です。
www.ncbi.nlm.nih.gov
信州大の論文『Cold environmental stress induces detrusor overactivity via resiniferatoxin-sensitive nerves in conscious rats.』のabstractが出てきます。この論文は、タイトルにもある通り、寒いところではレシニフェラトキシン*2感受神経を介して排尿筋*3が過活動になるということを研究したものです。レシニフェラトキシンは無髄C線維*4をブロックする物質です。

目的

寒冷環境が膀胱の過活動を誘発しているのかを調べる。レシニフェラトキシン(RTX)感受神経の役割に関して実験を行った。

手法

実験の3日前に12匹のメスのラットの膀胱に管(カニューレ)を付けた。うち6匹には実験24時間前にRTXを投与した。実験では、ラットをまず室温24℃に20分間置いておき、その後4℃に40分間放置してから再度室温24℃に20分間放置した。その際のラットの排尿量を計測した。また、膀胱のレシニフェラトキシン感受神経は免疫組織化学染色によりその構造が可視化されている。

結果

この実験では寒さが膀胱の過活動を誘発していることが明らかにされたが、RTXを投与されているラットはRTXを投与されていないラットよりも膀胱の過活動の程度が極めて低かった(siginificantly mitigated)。そして、RTXを投与されていないラットは、S100*5やカルシトニン*6遺伝子関連のアミノ酸で標識された膀胱のレシニフェラトキシン感受神経構造がはっきりと見られた。一方で、RTXを投与されているラットにはほとんど見られなかった。

結論

膀胱の過活動は寒冷環境が引き起こしている。
そして、その膀胱の過活動はレシニフェラトキシン感受神経を介している可能性が示された。

わかる。(明察)

つまり、レシニフェラトキシンはその感受神経に作用し、膀胱の過活動の原因である寒い環境が引き起こす頻尿は抑制可能かも。そうだとすると、頻尿を回避するという点で、寝ている間の失禁を回避できることになり、介護者をはじめ高齢者には有用ですね。

頻尿センサが膀胱を過活動させている問題

どうやら寒さを感じると膀胱の活動を活発化させるセンサの役割を果たしているものがあるそうです。abstract内ではreceptorと表現されているものです。今回の論文はちょっと新しくなって2010年のものです。
www.ncbi.nlm.nih.gov

目的

寒冷下で活発化するThe Transient Receptor Potential Melastatin (TRPM)8 channel*7は膀胱の過活動に関係していると言われてきたので、寒さにより皮膚上の受容体(頻尿センサ)が発する刺激が膀胱の過活動を引き起こし得るのかを皮膚上のTRPM8の発現を観察することで調べる。

手法

TRPM8を染色する蛍光染色法をラットの脚と背中に施し、膀胱内圧測定(cystometry)を継続的に行う。測定項目は、排尿間隔(Voiding interval/以下「VI」)・排尿量(micturition volume/以下「MV」)・膀胱の容量(bladder capacity/以下「BC」)であり、スースーする液体(menthol solution)をマーキングした脚と背中にスプレーする。スプレーする前後の項目値を測定する。

結果

蛍光染色法による分析で、マーキングした脚と背中にTRPM8が発現することが明らかになった。TRPM8陽性受容体(TRPM8-positive receptors)の発現に関しては、脚と背中で大きな差はなく、また生理食塩水は膀胱内圧測定のパラメータの大きな変化に関与してはいなかった。いよいよ何を言っているのかわからないが、スースーする液体を吹きかけた結果、TRPM8の発現に部位による差はみられなかったということらしい。生理食塩水はどこから出てきたのだろうか…そして、脚には50%と99%のスースー液を、背中には99%のスースー液をかけたあとでは、測定項目VI・MV・BCは著しく減少した。

結論

TRPM8はラットの皮膚上に発現した。スースー液のスプレーにより皮膚誘発性の過活動膀胱に至ったことから、頻尿はTRPM8受容体の刺激を介しているものである。
※ここは英文の構造がよく分からなかったので、意訳してあります。意訳になっているのかもよく分からないので、原文を載せておきます。

Spraying menthol solution onto the skin-induced detrusor activity, an effect we suggest is mediated by stimulation of TRPM8 receptors.

わかる。(博識)

医学的知識はないので詳細な機序はわかりませんが、測定項目の減少はつまるところ、寒さを感じると、排尿の間隔が短くなり(=頻尿)、排尿量も減って膀胱の容積も小さくなるということでしょうか。この測定項目の記述順序が意味を持っているのかわかりませんが、記述順序は入れ替えても良いと仮定して日本語的な順番に直すと、

  1. 寒さを感じる
  2. 皮膚上のTRPM8受容体が刺激を発する
  3. 膀胱が収縮する
  4. 容量の減少により排尿量も減少する&普段ほど溜められないので頻繁にお手洗いに立つ

といったところでしょうか。

頻尿へのアプローチ

これまでの研究から,頻尿の機序は交感神経を介したものであることがわかっています。そこで,頻尿対策をご紹介します。詳細は何度も繰り返しになりますが,
http://s-igaku.umin.jp/DATA/64_01/64_01_01.pdf
を見てください。

お手軽な対策法

冷え性の人は頻尿の傾向にあるらしく,また冷え性の人が実際に冷えているのは足先なんだそうです。ということは…

⑦ それでは,冷えた足を温めると頻尿は改善するのでしょうか?
答え:改善します。
末梢循環を改善する運動,つまり,ヒンズー・スクワット,つま先立ちを繰り返す運動を2週間継続
してもらいます。2週間後に,アンケート調査を行うと,症状は有為[「有意」の間違い?]に改善しました。

はい,足先を温めましょう!足の指を使う運動をして血液をガンガン流すことで改善していくようです。

投薬療法

1週間に一回以上尿意を堪え切れなくなる(尿意切迫感に耐えられない)過活動膀胱に対する投薬療法です。

抗コリン系薬剤

副交感神経を抑える薬剤です。がしかし!しかしですよ,効果はなかったのです。

αブロッカー

交感神経を抑える薬剤です。寒いと血圧が上がるらしいのですが,それはつまり交感神経が優位になるということを意味します。これまで書いてきたように,寒さは頻尿又は過活動膀胱を引き起こすので,頻尿や過活動膀胱は交感神経が優位な状態で起きていることになります。なので,交感神経を抑えることで頻尿又は過活動膀胱が改善するそうです。

ボツリヌストキシン膀胱壁内注射療法

この治療法は鳥取大学が国内で最初に開発した*8ものらしいです。
治療は次のように行われるようです。

膀胱の筋肉に細い針でボツリヌス毒素を神経因性過活動膀胱の場合は300単位を30箇所に分けて、特発性過活動膀胱の場合は100~150単位を10~15箇所に分けて注射します。手術時間は5~15分程度です。

案外手軽なんですね。
ボツリヌス毒素の注射は眼瞼痙攣などの治療に使われているイメージなのですが(前にどこでそんなことが書いてあるものを読んだ)、過活動膀胱の治療にも使われていたのですね。

おわり!

調べてみると案外面白いですね。そもそも寒冷下における頻尿はいまだにその機序が解明されていないという衝撃の事実が分かったところで満足したので終わります。
頻尿気味の人は足先を温めることが重要です!

*1:ふざけて書いたものだが、 http://s-igaku.umin.jp/DATA/64_01/64_01_01.pdf の⑤や「寒いところで膀胱が反応しがち問題」での実験をみてもらうとわかるように、気温が低ければよいというわけではなく、短時間だけ「寒っ」と感じることが重要である。やがて体が寒さになれるためである。

*2:カプサイシンのバケモン成分。wikiによれば、トウガラシの辛み成分の計測値であるスコヴィル値が純粋なカプサイシンの約1000倍、ハバネロの3万2000~16万倍程度である。なぜこんなに幅があるのかは謎だが、辛さを計る単位ではかなり強烈な値を示している。この成分は鎮痛性を示すらしく、現在鎮痛剤に使えるように研究されているらしい。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%82%B7%E3%83%8B%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%A9%E3%83%88%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%B3

*3:膀胱排尿筋は平滑筋、すなわち不随筋である。平滑筋は人体器官の「壁」によくみられるものらしく、膀胱以外では血管や子宮などを構成する筋肉である。そして膀胱は3種類の筋肉:排尿筋、内尿道括約筋、外尿道括約筋があり、随意筋は外尿道括約筋のみである。つまり、ここの筋肉を自分でコントロールできなくなると失禁するということになる。意外と複雑なんですね。 www.kyowa-kirin.co.jp

*4:http://s-igaku.umin.jp/DATA/64_01/64_01_01.pdf の④を参照されたし。

*5:調べてみたが、S100蛋白のことを指していると思われる。そしてS100AやS100P、S100Bと複数種類が存在し、細胞や神経の機能に関わるものである一方で、様々な疾病と関係があるとされており、炎症マーカとして使われているらしい。が、よく分からない。 S100タンパク質 - 脳科学辞典

*6:これはペプチドホルモンのことで、骨形成に関与するホルモンであるが、尿中にカルシウムとリン酸を排泄するように促進する働きもする。というものの、生理的用量(自然に分泌される量のこと?)ではむしろ腎臓にカルシウムの排泄を減らすように作用するらしい。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%83%88%E3%83%8B%E3%83%B3 そもそもペプチドホルモンとは何かという話だが、これは、mRNAの鋳型を基にアミノ酸が結合してできた分子のことらしい。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9A%E3%83%97%E3%83%81%E3%83%89%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%A2%E3%83%B3

*7:感覚神経の一部に発現しており、冷刺激受容体として、冷刺激の受容とそれを神経中枢に伝える役割を担っている。 www.nips.ac.jp 参考: http://www.nips.ac.jp/thermalbio/handbook/1-9v2.pdf

*8:鳥取大医学部器官制御外科学講座腎泌尿器学分野 www.med.tottori-u.ac.jp