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文学は社会的能力を高める?

今回は文学作品の読解が社会的能力を高めるという話。
www.jstage.jst.go.jp

今回の実験は小説読解による社会的能力への効果は、言語課題にのみ効果があるのか(近転移)、非言語課題にも及ぶ(遠転移)のかを調査した。

方法

参加者

実験群(小説読解トレーニング群):25名(男子15名・女子10名)
能動的統制群(評論読解トレーニング群):26名(男子12名・女子14名)

実験

実験は次の流れで行う。

  1. pre-test(1日目午前)
  2. training session 1(1日目午後)
  3. training session 2(2日目午前)
  4. post-test(2日目午後)
  5. follow-up test(ひと月後)
pre-test

strange story課題(言語を用いた心の理論課題)とanimation課題(図形を用いた心の理論課題)を行う。

training session 1

実験群は小説読解をトレーニングとして行う。統制群は論説文でトレーニングを行う。トレーニング終了後、読んだ内容に関連する問題に解答し、さらに解答の解説を行う。

training session 2

session 1と同じことを、トレーニングの素材を変えて行う。

post-test

pre-testとは異なるstrange story課題とanimation課題を行う。

follow-up test

strange story課題とanimation課題を行う。

strange story課題

  1. 文章を読みその後提示される問題に答える。
  2. 文章を1文ずつ提示される。
  3. 文章は3種類ー(a)心的状態に関連するstory8文、(b)動物に関連するstory8文、(c)関連のない文章8文ーである。
  4. 課題の得点を従属変数として、training(小説/論説)を参加者間要因、testの時期(pre/post/follow-up)を参加者内要因として分散分析を行う。→剰余変数(参加者個人の差異やtest条件の相異)の統制

animation課題

  1. 2つの図形が動く映像ー心的状態を表すToM、目的志向を表すGoal Direction、ランダムーを見て、その内容を記述する。
  2. 心的状態に言及するほど高得点を与える。
  3. 課題の得点を従属変数とする。その後はstrange story課題のときと同じ。

結果(strange story課題)

心的状態に関するstory

小説読解を行った実験群はtrainingとtestの有意な相互作用によりpre-testからpost-test/follow-up testの成績が向上した。
post-testとfollow-up testには有意差は見られず。

動物に関するstory

実験群はtrainingとtestの有意な相互作用によりpre-testからpost-test/follow-up testの成績が向上した。
post-testとfollow-up testには有意差は見られず。

関連のない文章

全ての主効果、相互作用において有意な差は見られなかった。

結果(animation課題)

映像の種類の種効果のみで有意な差が見られた。
最も心的状態への言及が多いToMにおいては、pre-testとpost-test/follow-up testには有意差は見られず。

考察

実験群においてstrange story課題では心情理解の得点が向上し、animation課題ではそのような結果を得られなかった。つまり、近転移のみが見られたということである。
さらにfollow-up testにおいても有意な成績向上が見られたことから、実験群では社会的能力の向上が長期的に見られることが明らかとなった。

動物に関するstoryについて

実験群では動物に関するstoryの成績も向上している。これは心情理解が人間のみならず動物にまで及んでいるということを示唆する。このような生物性の知覚は社会的能力の基盤である。
実験の結果、strange story課題では有意な成績向上があったもののanimation課題では有意な違いを得られなかった。これは言語領域と非言語領域がある生物性の知覚領域のうち、言語領域にのみ小説読解のtrainingが効果を与えたということを示唆している。