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読んだ論文:色を識別できるタコがいる?

こんにちは。
こないだからタコの話をまあ色々みているわけなんですが、今回はその中でも興味深かったものをご紹介。
それがこちら。
www.jstage.jst.go.jp

以前、『タコの教科書』の紹介をした際に、タコは色盲であるという話が出てきたが、そんな色盲のタコの中にも色の識別ができる種がいるらしいぞという論文を紹介してみる。

では内容の紹介に。

概要

スナダコとマダコを使って、タコが色の弁別を行えるのかを調査。
青球に触れると餌をもらえるということを訓練で学習させてから、青球と白球、青球とグレー球をタコに提示し、青球を選ぶ個体数を調査した。
実験の結果、「スナダコが色覚をもつ可能性が高い」と結論づけた。

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スナダコの勇姿*1
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マダコの勇姿*2

詳細を以下にまとめる。

実験に用いた個体と実験方法

実験個体には、スナダコ5個体(#1~#5)とマダコ7個体(#1~#7)を用いた。
実験は大きく3段回に分けて行われた。

予備訓練:青球を見せられたら触れるということを学習する。

まず、タコに青球を呈示し、これに触れてから餌を捕るという訓練を行った。
訓練に用いた球を青色にしたのは、タコの感光色素のピーク波長が470~475nmにあり、青球の反射スペクトルのピーク波長が460nmだからである。(下図参照)

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色の反射スペクトル(NPO法人True Colorsより)*3 
この予備訓練により青球を呈示されると触れるということを学習させた。

弁別訓練:2つの色球を弁別する。

この弁別訓練では、予備訓練で学習済みのタコに対して、正刺激物として青球を、負刺激物として白球及びグレー球を用いた。スナダコとマダコ#1~#4には青球と白球を、マダコ#5~#7には青球とグレー球(下図G1)を呈示した。タコに2つの異なる色の球から青球を選ばせることで、2つの色球を弁別することを学習させた。

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青球と白球及びグレー玉の反射スペクトル

移調試験:コントラストを変えても弁別できるのかを調べる。

弁別訓練で用いた色球は青球と白球、グレー球G1であり、明度が大きく異なっている。したがって、仮に色盲であったとしてもコントラストで見分けることができる。そこでグレー球のコントラストを変化させてタコに色球を呈示した。もし、タコに色覚があればグレー球のコントラストに関係なく青球を選択するはずである。色覚がなければ、青球に近い明度の時はグレー球と青球の選択がランダムになると考えられる。この前提で移調試験を行った。なお、青球の有意選択基準(ちゃんと見分けているとする基準)は正反応率(青球を選ぶ確率)80%以上or20%以下としている。反応率が高いほど青球に選択が偏ったことになり、逆に低いほどグレー球に選択が偏ったことになる。*4
この実験においては、スナダコとマダコ#1~#4(訓練で白球を呈示された個体群)には不刺激としてグレー球G1, G3,G5を使い、マダコ#5~#7(訓練でグレー球G1を提示された個体群)にはG2~G5を用いた。
先の訓練同様にこれらの球を青球と同時に示して、青球を選択するのかを調べた。

結果

以下、色の組み合わせを(B,G)で表記することとする。例えば、青球とグレー球G1の組み合わせであれば(B,G1)と書く。

  • スナダコ

正反応率は、(B,G5)であれば最低80%であり「常に青が有意に高頻度で選択され」る。(B,G3)であれば40%が1個体、70%が1個体、残り3個体が80%を超えた。(B,G1)では1個体が摂餌停止のため実験に参加していないが、残る4個体については、1個体が80%、残る3個体が70%であり、「高位で」青を選択した。
この結果から、「スナダコの色球弁別学習は明度の違いに基づく弁別であった可能性は否定される」としている。

#1の弁別訓練と移調試験の結果及びスナダコの実験の結果はこんな感じになったそう。
上のグラフからわかることは、スナダコ#1は弁別訓練で7セット目以外では高位の成績を収めている。また、移調試験においても最低80%という成績を示している。したがって、#1は有意に青色を選択していると言える。
スナダコ#1~#5について見てみると、(B,G1)ではランダムまたは青色に偏り、(B,G3)は高位に青色に偏り、(B,G5)は青色を有意に選択している。

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#1の反応率の時系列とスナダコ#1~#5の実験結果

  • マダコ

正反応率は、#1~#4において(B,G1)で30%~90%で青球の選択はランダムか青色に偏った。(B,G3)では10%~60%, (B,G4)では0%~70%でランダムか灰色に偏った。(B,G5)では30%~100%でランダムか青色に偏った。
この結果から、「明度によって選択行動が変化したことにより、マダコの色球弁別学習が明度の違いに基づく弁別であった可能性は否定できない」としている。つまり色ではなくコントラストで見分けているのではないかと考えられるということだ。

個体#5の正反応率の時系列とマダコの実験結果は次の通りになったそうだ。
トライアル回数がスナダコよりも多い理由は、マダコは反応が不明瞭ゆえだそうだ。
さて、この結果をみると#5はG2で選択がほぼランダムに、G3でグレーに偏り、G4でランダムまたはグレーに偏り、G5でランダムまたは青色に偏りがあると言える。したがって、#5に限って言えば「色で判別していないだろう」と言える。
全マダコについてみると、(B,G1)ではほぼランダムまたは青色に偏り、(B,G2)ではほぼランダム、(B,G3)ではほぼランダムまたはグレーに偏り、(B,G4)ではほぼランダムまたはグレーに偏り、(B,G5)ではほぼランダムまたは青色に偏りがあると言える。
偏りについて見てみると、グレーに偏りが見られたG3,G4は青色に近い明度である一方で、青色に偏りが見られたG5は明度が青色と大きく異なる。したがって、訓練時に学習した青色のコントラストを基準にして見分けているのではないかと言える。そうであれば、青色と近い明度であればコントラストを見分けにくくなるというのも納得である。
選択も偏りがあるもほぼランダムことから有意に青色を弁別しているとは言えない。

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個体#5の正反応率の時系列及びマダコ#1~#7の実験結果

ちなみに

マダコの感光色素は1種類しかいないことが知られている。今回の実験はそのことに矛盾しない結果となった。
余談だが、ホタルイカは色覚があり、カジキやマグロ、カツオは色盲であることが知られている。

今回はここまで。面白い世界ですね。

*1:www.seaeggdivers.com

*2:www.seaparadise.co.jp

*3:NPO法人True Colors www.truecolors.jp

*4:ここで注意しないといけないことは、各個体のトライアルに対して「色の選択は80%になったことがあれば青色に、20%以下になったことがあればグレーに偏っている」とされ、それ以外であれば「選択はランダムになされる」とされる点である。正反応をした個体の割合を表しているわけではなく、また複数回のトライアルのうち正反応をしたトライアルの割合を示しているわけでもない。