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読んだ本の話:タコのあれこれ

ゐゑーーーーーーゐ!
今日は読んだ本をざっくり紹介する。

タコの教科書

タコの教科書

この本は発生学や生理学、学習と行動に関する研究などの生物学的な研究から明らかにされたタコの能力や生態の紹介から、古代以来の人間の食生活との関わり、また映画や小説などの文化的な関わりを全7章に分けて紹介している。
春画をはじめとする芸術に登場する一方で、政治的なプロパガンダに「悪」の権化としてタコが使われたことなどからタコへの様々な捉え方を紹介している。

この中で面白かった話を一部だけご紹介。

タコは色盲

タコは体表の色を変えることができる生物として有名だが、どうやら周囲の色を把握してその色に合わせているわけではないようだ。なぜなら、タコは色盲で色を認識できないとされているためである。詳細は後日、他の研究成果について調べてから再度まとめようと思う。
ただ、タコは色盲であるとされている*1*2からと言って視覚が劣っているわけではない。タコの眼は非常に優れており、明るさ・大きさ・方向感覚(水平・鉛直)の認識や典型的幾何学模様の識別ができる。さらに、タコには個体ごとに「利き眼」があり、外界認識時にはこの利き眼を使っているという。このような「側性化」は脳の左右非対称性を示すもので脊椎動物にのみ見られるものとされていたが、無脊椎動物のタコもこのような性質を有している。

タコには個性がある?

ハーバード大薬理学部の教授ピーター・B・デューズが「オペランド行動」を無脊椎動物がどの程度できるのかを研究していたが、彼は実験に使っていたタコ3匹にアルバート、バートラムそしてチャールズと名前をつけていた。アルバートとバートラムは実験に協力的だったが、チャールズは反抗的だった。実験に使っていた道具を使い物にならないようにしただけではなく、水槽前を通りがかる人間に誰彼構わず水をジェット噴射していたそうだ。
他にも頭足類愛好家向けサイトtonmo.com*3でタコ飼育法に関するフォーラムの管理人ナンシー・キング曰く、玩具で遊びたがるタコもいれば貝殻を選り分けることを好むタコもいるそうだ。そして、玩具で遊ぶにしても積木が好きなタコもいればプラ製玩具やストローを組み上げることが好きなものまでいるらしい。

タコも認知症になる?

タコは生殖(交接という)を終えると不思議な行動をとるらしい。
オスは交接後、餌を取らなくなり、また巣に隠れることもなく過ごすようになる。餌を取らず弱っていき、筋肉の制御ができなくなり病的なマダラ模様が体表に浮かび上がってくる。こうしてカモフラ能力や狩りの能力といった生存本能を放棄して衰弱死する。
メスは交接後、直ちにオスからもらった精莢を卵に受精させるとは限らない。ランが成熟するまでは輸卵管に精莢をキープしている。卵が成熟し受精すると産卵をするが、卵を産みつけると今度は見張りと世話をする。メスは卵に新鮮な海水を送り、巣穴をきれいに保つ。このように卵にかかりっきりになりメスもまた餌を取らなくなる。孵化する際には母ダコは衰弱し切っておりそのまま死を迎える。
リビアンツースポットオクトパスのメスの観察によって餌の食べ方を忘れてしまったのではないかと思われる行動が確認されいる。巻貝を食べる際に穴を開けて食べるのが普通なのだが、産卵後のメスは穴を開けようとはせずに無理やり貝の身を引っ張り出そうとする。このやり方では成功率は低くなり徐々に食べる量が減る。
このような認知症ともいえる行動には内分泌腺である視柄腺が関与していると考えられており、視柄腺を切除されたメスは再び穴を開けて食べるようになる。*4*5*6

タコはバテやすい?

タコは体力がないそうだ。敵から逃げるタコはひたすら泳ぐのではなくバッと逃げて一瞬で周囲に溶け込む。また、交接の時もジタバタ動かないし心拍数も安静時と変わらない。これはタコの血液が青いことに由来する。タコやイカの血液が青いのは中学生でも知っているが、なぜ青いのかというとヘモシアニンという成分が酸素と結合すると青くなるからだ。このヘモシアニンは人間などが持つヘモグロビンと比べて酸素との結合力が弱い。そのため、タコは長時間動き続けると酸欠になってしまう。交接時にあまり動かないのもこれが理由とされている。タコの多くは一生で一回の産卵しかしない。一世一代の大イベントでむやみやたらに興奮して酸欠でコケるわけにはいかない。*7*8

タコレシピと食通

タコについてはアリストテレスがコメントを残しているほど古くから知られていた。*9
そんなタコだが、古くから食べられていた。そしてタコ料理のレシピも残っている。例えば、

  • 『Llibre de Sent Sovi』(14C半ば)
  • 『Lilibre del coch』(16C初め)
  • Opera dell'arte del cucinare』(16C後半)

などがある。
なお、日本のタコ食文化についても言及があったが、気になる一節があった。読売新聞に掲載されたものだそうなのだが、

消耗する夏の暑さに打ち勝つために、関西人の間ではタコを食卓に出す習わしがある。関西地方にはタコを食べるとたちまち元気が回復すると信じている人が多いため、7月2日を非公式にタコの日と名づける動きが出ている…

というのは本当なのだろうか…


今回はここまで。
面白かったトピックについて紹介し、関連しそうなリンクをつけておきましたので興味を持った人はぜひ読んでみて。
『タコの教科書』は非常にまとまっていて読みやすいので、リンク先の話を読む前にこっちを先に読んでおくとすんなりと論文などを読めるかも。そして参考文献もたくさん載っているので手を広げやすい。

*1:natgeo.nikkeibp.co.jp

*2:www.jstage.jst.go.jp

*3:www.tonmo.com

*4:視柄腺に関する研究 https://www.jstage.jst.go.jp/article/nl2001jsce/2005/119/2005_119_119_12/_pdf/-char/ja

*5:タコの母性と視柄腺の関係について。 www.sciencealert.com

*6:日本語まとめ。 news.nicovideo.jp

*7:例外的な種が発見されている。 www.afpbb.com

*8:www.calacademy.org

*9:アリストテレスは『動物誌』においてタコについて几帳面で倹約家だが、愚かで賢くないと述べている。