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ゾロアスター教について。2

前回のエントリではゾロアスター教の教えや儀式などを紹介しましたが、大きなものが欠けていましたね。そうです、神話と教祖伝説です。
宗教といえば神話と教祖伝説がつきもの。これを紹介せずして話を終えるわけにはいきません。
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神話が収録されている聖典の話をする前にイラン高原の支配者の変遷を簡単に紹介します。ゾロアスター教は古代アーリア人多神教信仰をはじめとする様々な信仰が跋扈するイラン高原において、ペルアシア帝国による国教化で最盛期を迎えました。この宗教と権力者の関係は重要なのです。
ということでいってみよー。

イラン高原の支配者の変遷

まず前提として教祖ザラスシュトラはBC13~BC7のどこかで生きていたと考えられている。

  1. ハカーマンシュ王朝ペルシア(BC550~BC330)
  2. セレウコス朝シリア(BC312~BC63)
  3. アルシャク朝パルティア(BC247~AC224)
  4. ササン朝ペルシア(224~651)

1のハカーマンシュ王朝は古代アーリア人の宗教を信仰していたようである。ただしザラスシュトラの思想の影響は不明。
2のセレウコス朝ギリシア系のためゾロアスター教を信仰していたとは考えられない。
3のアルシャク朝ではミスラ教が優勢だったとされている。この時代にザラスシュトラ原始教団とイラン高原北西部のマゴス神官団の思想が融合しペルシア州でペルシア的ゾロアスター教の原始母体が形成された。なお、このマゴス神官団の最近親婚などの習慣もここで取り入れられたと考えられている。
4のササン朝では皇帝がペルシア州の拝火殿の神官出身ということもありゾロアスター教とのつながりが深かった。そしてササン朝においてゾロアスター教は国教の地位を得た。ササン朝は政治的にも文化的にも中央集権的であったのでゾロアスター教は国家のサポートを得て最盛期を迎えることになる。

国家の庇護の下での宣教

ゾロアスター教は皇帝の庇護化にあることから全国的に宣教ができるようになり古代アーリア人の信仰を排除していった。さらに神官団も完了組織の構成員として国家体制を支えていた。
こうしてアルシャク朝時代に土壌醸成されていたゾロアスター教は国教化に伴い聖典編纂も行われ一気に拡大することになる。

聖典編纂

当時はシリア方面にキリスト教メソポタミア方面にマニ教、インド方面に仏教が存在していた。これらの宗教は聖典を持っていたため、明確な教義体系の整備と聖典の編纂は対抗するために必須であった。
まず、原始教団の伝承を内容的に分類した。ザラスシュトラ直伝の呪文が「ガーサー」、その他の古代アーリア人の呪文が「マントーラ」、そして古代アーリア人の宗教規定が内容的に分類・整理された。さらにBC12以来のパフラヴィー語の伝承に注釈を加えて、全21巻の聖典『アヴェスター』がアベスター文字で編纂された。
このアベスター文字はギリシア文字やキリスト教パフラヴィー文字をもとに発明された文字である。発音重視の呪文であったため、編纂時のパフラヴィー文字では満足に記述することできなかったので新たにアベスター文字を開発することになった。

聖典

聖典は全21巻で、ガーサー関係7巻、マンスラ関係7巻、宗教法7巻から構成されている。イスラム教徒によって破壊され原本の70%以上は失われてしまったので、今では翻案的パフラヴィー語文献しか残っていない。

神話:宇宙創生論

マンスラ関係の聖典第1巻『ダームダード』巻に収録されている宇宙創生論は次の通りである。

2柱の争い

まず、太鼓の昔に宇宙は善なる光の神アフラ・マズダーの世界と悪なる暗黒の神アンラ・マンユの世界に分かれていた。この2つの世界の間には虛空の神ヴェーユがいたので2つの世界が交わることはなかった。しかし、悪の神アンリ・マンユが善神アフラ・マズダーに戦いを挑んだことで虛空が消えてしまい、善悪の2つの要素が交わった。これによって世界が誕生した。
衝突した2柱の神は当初はメーノーグ界(霊的次元)で争っていたが、やがて戦いの舞台はゲーティーグ界(物質的次元)で実力行使に出るようになった。このことは破滅的な戦争の勃発を意味していた。
戦いの中でアフラ・マズダーは次のような順番で善なる創造*1を行った。

  1. 天空
  2. 大地
  3. 河川
  4. 植物
  5. 家畜
  6. 最初の人間ガヨーマルト
  7. 恒星
  8. メーノーグ界の神々
  9. 星辰

6番目の創造で誕生した最初の人間ガヨーマルトは人型ではなく球形をしていたとされている。この最初の人間は暗黒勢力によってあっさりと敗北する。その後、彼の精液が大地に染み込み30年後にそこから植物が生え、その植物が初の男女のカップルとなった。このカップルがマシュヤグとマシュヤーナブ兄妹である。

マシュヤグ&マシュヤーナグ兄妹とその子孫

マシュヤグとマシュヤーナグの間に生まれた子がスヤーナグで、このスナーヤグの子がホーシャングである。ホーシャングは7州の天下を支配しアーリア人初の王朝ペシュダートの始祖となった。ホーシャング、タナムーラス、ジャムシードと王朝は続き、この3代で悪の勢力を地上から駆逐した。しかし、悪を追い出すことに成功したジャムシードは次第に傲慢となり王権の象徴であるフワルナム(光輪)を失った。ジャムシードは悪龍アジ・ダハーグに打倒されてしまった。アジ・ダハーグは7州を支配し、アーリア民族は苦しみもがく事になる。アジ・ダハーグの支配が始まってから1000年が満了する日、ジャムシードの末裔でペーシュダート朝の正当な後継者フレードーンがアジ・ダハーグを討伐することに成功した。支配権を奪還したフレードーンはその後7州を500年間にわたり支配した。
フレードーンは隠居時、長男サルムにはローマ、次男トーズにはトゥルケスターン*2、三男エーリズにはエーラーン・シャフル*3を分与した。

兄弟喧嘩の果てに

三男が受け継いだエーラン・シャフルは優良物件であったため、それを与えられなかった上2人の兄たちはキレて末弟を殺し、エーラン・シャフル支配権を奪った。この血みどろの兄弟喧嘩に際してエーリズの娘ヴェーザグは祖父フレードーンに匿われることになった。そして、例によってフレードーンとヴェーザクは祖父と孫娘という関係でありながら近親相姦に及んだ。その結果、息子マヌシュチフルが誕生し、彼は母親の仇であるサルムとトーズを討ち取った。彼はその後エーラン・シャフルを平和的に統治した。エーラン・シャフルはペシュダート朝のマヌシュチフルと次代ウザウ、カイ王朝のカイ・カヴァートと次代カイ・カーヨース、3代目カイ・ホスロー、4代目カイ・ロフラースプ、5代目カイ・ウィシュタースプが統治した。5代目のカイ・ウィシュタースプはザラシュシュトラの生きていた当時のアーリア人王であった。そしてここからはこれまでみてきたザラシュストラの教えと原始ゾロアスター教の思想が形成されてきた。

教祖伝説

『スパンド』(7巻)

  • ザラシュストラはペシュダード朝マヌシュチフル王の12代目の子孫ポルシュ・アスパの子である。→血筋よしということを言いたかったらしい。
  • ザラシュストラはメーノーグ界でアフラ・マズダーが特別に創造した栄光のフワトルナフ(光輪)がゲーティーグ界で人間の女性の母胎に降下して生まれた。→霊的世界・物質的世界の双方から祝福を受けて誕生したということが言いたいらしい。処女懐胎と受胎告知っぽいエピソード。
  • フワトルナフが人間の女性に降下することを感知したカヤクとカルブ(古代アーリア人諸宗教の神官でゾロアスター教では邪教の神官扱いをされる)はザラスシュトラ抹殺を企図するも失敗に終わった。→ザラスシュトラの誕生はアフラ・マズダーの御加護あってのイベントということが言いたかったらしい。
  • 上記のように抹殺の策謀を御加護により跳ね除けたザラスシュトラは大声で笑いながら生まれてきた。
  • 30歳の時、ウェフ・ダーイテー河畔で儀式用に水を汲んでいる時に大天使ワフマンに導かれてアフラ・マズダーと対面。ここでザラスシュトラは覚醒する。ちなみに、その後10年間で7回もアフラ・マズダーと対面している。
  • アフラ・マズダーとの初対面から12年間の放浪。
  • 42歳の時、カイ・ウィシュタースプの王国に迎えられる。そして先述の通り彼の専属神官になった。
  • 77歳で亡くなったとされている。


という流れでした。
そのほかにも時間論や存在物の分類などの話もありますが、中の人がきちんと噛み砕けていないので書くとしてもまた今度。
では。

*1:反対にアンリ・マンユの創造は悪なる創造とされ、災厄がこれにあたる。

*2:トルキスタン

*3:サーサーン朝の支配領域