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アルツハイマーの話・続編

こんにちは。
前回、アルツハイマー患者の脳にはタウとよばれるタンパク質の異常な凝集が見られるという話を紹介しました。
ただ、前回は知らない言葉がたくさん登場したので今回はそこら辺を調べてみました。
make-a-progress.hatenadiary.jp

そもそも

アルツハイマー患者の脳

アルツハイマー患者の脳には老人斑という「シミ」とタウ・タンパク質の凝集によるNFTsが見られる。また、アルツハイマーの機序としては、アミロイドβが沈着するアミロイド病理→タウ病理→神経細胞死という流れがある。

アミロイドβ

高い集積性を示し、凝集すると神経毒性を示す。沈着すると老人斑と呼ばれるシミを形成する。認知症の最初期の特徴である。
bsd.neuroinf.jp

タウ・タンパク質

前回紹介した記事の主役。アルツハイマーの主要フェーズでは2段階目に登場する。主に中枢神経や末梢神経の神経細胞において軸索に特異的に存在する。細胞内の微小管*1結合タンパク質の1種で、異常リン酸化されると樹状突起(スパイン)に転移し神経病変を引き起こす。

アルツハイマーの機序

大きく分けて3つのフェーズ:アミロイド病理→タウ病理→神経細胞死が存在していると考えられている。このような3段階のフェーズがあるとする仮説を「アミロイドカスケード仮説」という。
細胞外にある可溶性アミロイドβが増加しプラーク(不溶性の老人斑)を形成する。それにより、タウ・タンパク質の異常リン酸化が誘導される。
可溶性のタウは異常リン酸化したことで微小管から遊離する。そして軸索からスパインに転移してSrcチロシンキナーゼ*2であるfynと相互作用しfynをスパインに局在させる。こうして高濃度化したfynは活性化し、興奮性NMDA受容体*3GluN2Bをリン酸化して安定化する。
これによって、グルタミン酸シグナル伝達が増幅し、細胞内へのカルシウムイオンの流入が増加する。これによってアミロイドβの毒性が増加する。カルシウムによって誘導されたこの毒性はシナプス後部にダメージを与えて、細胞死を生じさせる。
老人斑とNFTsは不溶性で高密度に繊維化し、神経細胞にダメージを与えて細胞死を引き起こす。
www.riken.jp
www.riken.jp
www.abcam.co.jp
ここまでの流れをざっくりまとめると、アミロイドβが増える→タウが軸索からスパインに移動→リン酸化作用を持つfynをスパイン内に増加させる→ニューロンを興奮させるNMDA受容体をリン酸化する→興奮してシグナル伝達が増大しCa2+が細胞内に流入アミロイドβの神経毒性増加
という感じ。

理研による新発見

先ほどもリンクをあげたが、理研が今年の6月にCAPONというタンパク質がタウと結合してタウ病理と神経細胞死への関与を示唆する結果を得ている。
www.riken.jp
このCAPONというタンパク質はタウと結合するのだが、ヒトアミロイド病理を再現したモデルマウスにおいて脳内でCAPONを発現させた場合、タウ病理と神経細胞死が見られた。一方で、CAPONを欠損させた場合には、脳の萎縮が抑制された。このことは、CAPONがタウ病理と神経細胞死における重要な因子であることを示唆するものである。

今回はここまで。
アルツハイマーが治る病になる日も近いかも?

*1:神経細胞内のおける物資の輸送を担当している。スパイン内では密に並びその構造を維持している。 bsd.neuroinf.jp

*2:チロシンキナーゼはタンパク質中のチロシン残基をリン酸化する。Srcは肉腫を意味するsarcomamの短縮系でがん原遺伝子である。

*3:グルタミン酸が結合するとNa+やCa2+を細胞外から取り込みニューロンを興奮させる。