ご注文は進捗ですか?

気になったことを結論が出ないまま置いたりしています。ときどき進捗も置く。

ピンクノイズのお話。

今回は騒音とピンクノイズ の話。
読んだ論文はこちら。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/61/7/61_KJ00003470145/_pdf/-char/ja

ではいってみよー。

ピンクノイズ とは

カラードノイズの1種でパワーが周波数に反比例する音のこと。同じ周波数での光はピンク色に見えることからこの名前で呼ばれている。1/fノイズと呼ばれることもある。

実験の概要

これまでの研究

これまでの研究で、記憶精神作業中において、無意味雑音は時間平均音圧レベル*1の低下とともに「うるさい」という心理的印象も低減されるが、有意味雑音は心理的印象がそれほど改善しなかった。
この結果から、有意味雑音を無意味雑音でマスキングすれば「うるささ」を改善できるのではないかという発想に至る。
そこで有意味雑音を無意味雑音でマスキングしてみたところ、心理的印象の改善と課題作業の成績向上において効果が見られた。ただし、この実験ではマスキング音は無意味定常雑音であるピンクノイズ に限定されており、有意味雑音のBGMや変動性無意味雑音でのマスキングの効果は検討されていなかった。

今回の実験

今回は主に2つの実験からなる。まず、有意味雑音をピンクノイズ や変動音でマスキングしたときの効果を測定し、次に、マスキング音を無意味雑音に限定して変動音の影響を検討する。

実験1:有意味雑音をピンクノイズや変動音でマスキングorマスキングなし

課題作業をする際に、音声雑音を有意味雑音のBGMでマスキングした場合と無意味雑音のピンクノイズ でマスキングした場合を比較する。音声雑音はある講演から拍手や効果音、音楽を除去したものを40dBにしたものである。マスキング音は、ピンクノイズ は176.75Hz~5656Hzのものを、BGMは歌詞のないものでゆったりとした感じのものと激しい感じのものの2種類を、それぞれ34dB,37dB,40dBの3段階用意した。この3段階はS/N比*2が順に6,3,0である。
これらのノイズでマスキングした場合とマスキングをしなかった場合の「うるささ」に関する心理的印象を探った。
この実験における課題は3つの数字の加減演算で、聴覚または視覚によって数字と演算符号が伝達される。1秒ごとに1文字を伝達し解答時間に10秒とる15秒1セットの課題を5分間連続で行った。

結果

心理的印象については「音(音声雑音とマスキング音)のうるささについてどのように感じたか」を「F1:全く気にならない・F2:気にならない・F3:あまり気にならず・F4:少しうるさい・F5:うるさい・F6:かなりうるさい・F7:非常にうるさい」の7段階の中から排他的選択をさせた。加えて、「音声雑音は気になったか」をYes or Noで回答させた。
その結果、

  • ピンクノイズ でマスキングした場合としなかった場合

有意水準1%で視覚・聴覚による伝達にともに有意差が見られた。よって、ピンクノイズ でのマスキングには効果があったことがわかった。(下画像)
特にS/N比が3dBのケースで心理的印象が1カテゴリ以上改善した。

  • BGMでマスキングした場合としなかった場合

聴覚による伝達の場合にはS/N比3dBのときに有意水準1%で有意差が見られたが、それ以外では心理的印象が改善することはなかった。これより、BGMでは印象の改善は難しいことが明らかになった。

この実験における課題の成績は非常に高いものであったが(計算を高い正解率で回答した)、このことが直ちにマスキングによる効果であるとはいえない。一方で、マスキングしたことで成績が下がったわけでもないことには注意。
下画像の赤線は中の人が加えた。

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ピンクノイズ とBGMでマスキングし視覚で伝達したケース
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ピンクノイズ とBGMでマスキングし聴覚で伝達したケース

実験2:マスキング音を変動性を持たせたピンクノイズに限定or定常のピンクノイズ

先の実験1でS/N比3dBが有効なマスキングではないかということを示唆する結果を得た。そこで、無意味定常雑音であるピンクノイズ に変動幅を持たせてマスキングに用いた。 標準偏差σ=3である37dBのピンクノイズの他に、σ =5,7のピンクノイズ も用意した。なお、最大音圧レベルは、σ=3で42.0dB,σ=5で44.2dB,σ=7で46.3dBである。
手法は実験1と同じである。

結果

心理的印象については、

  • σ=0の場合(定常のピンクノイズの場合)とσ=3,5,7の場合

σ=3,5,7いずれもσ=0の場合と比べて、有意水準1%で有意差があった。

  • σ=3,5,7について

聴覚による伝達では、σ=3とσ=5の場合並びにσ=5とσ=7の場合に有意水準1%で有意差が見られた。σが大きくなるほど、つまり、signal音40dBとの違いが大きいマスキング音ほど心理的印象が悪化し「音声雑音がうるさい」と感じるようになった。これは標準偏差σが大きくなるにつれてS/N比の変動も大きくなることが原因であると考えられている。signalの音声雑音とマスキング音のS/N比が小さい時は音声ノイズが減殺されマスキング効果があるが、S/N比が大きくなるとsignalの音声雑音に対して十分なマスキングができない(いわばマスキング音が負けている)状態になり、signalがよく聴こえてきてしまう。これが心理的印象の悪化につながったと言える。
視覚による伝達の場合では、σ=5とσ=7の場合に有意水準5%で有意差が見られた。

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σ=0,3,5,7の変動性を持たせたピンクノイズ でマスキングした場合

終わり

この実験が示唆していることは、雑音を効果的に減殺するのであれば、無意味定常雑音であるピンクノイズ を減殺したい雑音とのS/N比がなるべく小さくなる様に設定するということである。
音の変動性が高いと「うるさい」と感じやすくなるというのは、見ていた動画が暗転し画面に自分の顔が映って萎えたというのと同じ様な現象であるなという感想を抱きました。

*1:単位dBで表される。 audiology-japan.jp

*2:signal-Noise ratioのこと。今回の場合、有意味雑音がSignalに、マスキング音がNoiseになる。 pabasic.com