免疫システムと社会性行動の共進化
こんにちは。
マウスには社会性行動が見られることが知られています。そして情動障害を抱えたマウスにはこの社会性行動が見られなくなることはてんかん併発型精神障害への装薬検討の論文の回で紹介しました。
今回は、その社会性行動が免疫系とともに進化してきたのではないかというお話です。
www.nature.com
/*日本語要約版はこちら。
www.natureasia.com*/
英語版論文は課金しないと内容全てが見られないという仕様だったのでabstractのみを読みました。
マウスの社会性行動と精神障害のお話はこちらのエントリから論文に飛んでください。
make-a-progress.hatenadiary.jp
ということでいってみよー。
免疫機能に障害があると
免疫の機能障害は神経系機能や情動機能に何らかの不調をもたらすとされてきました。しかし、末梢の免疫が神経系に及ぼす影響の機構はその多くが謎に包まれたままでした。
transcriptomesと社会性
マウスに代表される齧歯類の脳由来のtranscriptomesとT細胞由来のcytokineに対する細胞のtranscriptomesmの関連性は、社会性行動とIFN-γによる反応との強い相互作用を示しているということもわかってきました。
transcriptomesはある状況下において細胞にあるmRNAのことを言います。基本的にゲノムはどの器官でも同一なものですが、外部状況に呼応した時など特定の状況下において組織ごとに固有のゲノム構成をとることがあります。これをtranscriptomesと言います。
IFNにはα,β,γとあり、αとβが腫瘍細胞などに対する直接的な増殖抑制反応をとるのに対し、γは炎症反応に対する調節作用やα,βの増強作用を持ちます。
これらを踏まえた上で整理すると、齧歯類において、脳に由来する固有のゲノム構成と(T細胞由来の免疫作用を持つタンパク質)cytokineに対する細胞の固有のゲノム構成との関連性は、社会性行動とIFN-γによって引き起こされる反応との間に強い相互関係があることを示している、ということです。本来は同一なはずのゲノム構成が異なることがある、そしてその異なるゲノム構成同士の関係は社会性と免疫系により引き起こされる反応に関係性があることを示すものであると言っているわけですね。
そして抑制的ニューロンは社会性行動と投射ニューロンにおけるGABAergic(γ-アミノ酪酸)の量を増加させています。抑制的ニューロンは興奮を伝えるニューロンの出力を調整し過度な興奮を抑制する働きをしています。γ-アミノ酪酸は何かというと、これは抑制的ニューロンの伝達物質のことで、ニューロンの活動レベルを低下させる作用を有しています。*1*2
免疫システムと社会性活動の共進化
IFN-γシグナリングの作用を表す経路図(pathway)*3は社会性行動と効率的な免疫反応との共進化による関連を示します。免疫の作用を図示すると社会性行動と共進化を遂げてきたことが明らかになったわけです。
下図はT細胞受容体pathwayです。参考までに。中の人は見方がさっぱりわかりません。
www.kegg.jp
ただこの様な事例はマウスなどの齧歯類だけではなく、魚類やハエにも見られるもので、器官のtranscriptomesのメタ分析によってIFN-γやJAK-STAT*4に依存する遺伝子の発現頻度が上がったことが明らかになったそうです。
*4:IFNが受容体に結合することで連鎖的に活性化されて核に情報を伝える酵素のことみたいです。 www.pharm.or.jp