ご注文は進捗ですか?

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自殺について調べてみた。

こんばんは。
先日帰ろうとしたら人身事故の影響に巻き込まれました。何と終電の約60分前に事故が起き,一時はこのまま運転は再開しない見通しとアナウンスもされていましたが,結局約80分後に運転は再開したようです。
中の人は早々にタクシーで帰りました。
個人の生死は自己決定権の範疇だと個人的には思っているので,自殺するのも生死を自ら決める究極の権利だと考えていますが,他人に多大な迷惑をかけていい道理はありません。つまり,電車に飛び込むのは本当にやめてほしいわけです。時間帯によっては万単位の人間に影響を与えますし,そもそも何の罪もない運転士にトラウマを植え付けかねない行為は許されるものではありません。
ということで,今回は,以前から疑問だった自殺者の動機(なぜ死を選ぶに至ったのか?)と自殺大国という不名誉な称号をもつわが国の自殺を取り巻く事情を調べてみました。

今年度の自殺者数

10月末時点の暫定値で,17,413人でした。
自殺者数|警察庁Webサイト

単純な人数だけで見ると,3月・5月・4月についで10月は自殺者が多いですね。
3月・4月は年度が変わる時期であり人数が増加するのは何となく理解できますし,5月はいわゆる5月病かなと(正しいか否かはさておき)推測できますが,10月はなぜなんでしょうね。年の瀬でもなければ、いわゆる夏休み明けでもない。いわば「中途半端な」時期なわけです。冬になると日照時間が少なくなり季節性の鬱になるという話もありますが,10月は冬というより秋であり季節性鬱の可能性も考えにくいように感じます。季節性鬱は秋又は冬から発症し得るものらしく,10月から発症することが考えられないわけではありませんが,もしそうだとすると11月から2月までの自殺者も多くなるはずです。ただ,これはいわゆる「健康な人間」の感覚なので,当事者がどのように感じているかは分かりません。
冬季うつ病

地域でみると,10月は東京・埼玉が3桁台で,そこに神奈川と千葉が続いている状況です。関西圏では首都圏のような大きな値は見られず,関西圏では高い値をマークしている大阪・兵庫であっても70人台でした(神奈川より少ない)。
数の上では人口の多い都心部,特に首都圏が上位に来るのは納得です。
大阪は例年自殺による死亡率が比較的低いみたいですね。

自殺者の推移

警察庁の資料によれば,人数が確定している平成29年までの自殺者の推移は以下の通りです。
https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/H29/H29_jisatsunojoukyou_01.pdf

これを見ると,まず男性の自殺者が女性の2倍以上いることがわかります。資料によれば約2.3倍です。一方で,ここ数年では減少しており,一時は年間自殺者3万人超えが社会的問題として取り上げられていたものの,ここ数年では3万人を下回っています(無論,今後増加する可能性は大いにあります)。そして,ピークは平成15年で3万4000人を超えています。平成15年は郵政民営化が実現し,又,宮城県地震が頻発した年です。
この時期の自殺の背景を調べてみたところ,経済的要因が大きく,景気の影響を受けやすい中高年男性が占める割合が多くなったことをピークの原因に挙げているものが多かったです。実際に,遺書のある男性自殺者で最多の原因は景気的要因でした。そして確かに中高年男性の自殺者が非常に多いです。(サンプル数を考えると)統計的には男性の自殺は景気的要因が主たる原因であると結論して問題なさそうですが,健康上の問題や遺書なしの人数の多さも気になります。
参考

では,景気状況を見ていきます。
この年にはりそな銀行に約2兆円の公的資金が注入されるなど,金融機関の不安定化による金融危機への意識の高まりがありました。しかし,その後景気回復に向かっていきました。つまり不景気が加速したとは言えないわけです。もっとも,景気の良し悪しや回復後退の判断はあとからデータを見て言われる「後付け」のものなので,この当時生きていた人間は景気が悪いと感じていたかもしれません。
そもそも,日本人は持ち前のデフレマインドによりだいたい常に景気が悪いと言っている生き物なので,個人が感じる景気動向など1ミリもあてにならないでしょう。
第1節 景気の現状と前向きの動き
https://www.dir.co.jp/report/research/law-research/regulation/08101701financial.pdf

景気の影響をより一層受けやすい男性の自殺に景気的要因があることは統計的に分かりましたが,景気状況は特段悪化していたというわけでもなさそうでした。どうなっているんでしょうか…
続いて日照時間を見て,季節性鬱の可能性を検討してみます。ということで,まず気象庁の資料を見ます。
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/stat/tenko2003.pdf

平年と比べて90%以下となった地域が多くなり全国的に日照時間が少なかったことが分かります。地域別の自殺者数を見ます。人口数を配慮して10万人当たりの死亡率を見ると,日照時間とはほとんど相関がありません(相関係数を計算すると約-0.036でした。)。とりあえず散布図を描いてみました。日照時間が(前年と比べてではありますが)少なくなったことが即ち自殺者の増加につながっているとは言えないことが分かります。
死亡率で見ると,青森・岩手・秋田・山形・新潟・富山・福井・島根・宮崎で30%を超えています。東北・北陸高いですね…
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都道府県別にみた自殺

ところで,なぜ東北が10万人当たりの死亡率で上位に来ているのでしょうか。平成15年の秋田県に至っては40%を超えています。この年に限らず,東北地方は比較的自殺率の高い地域と言われています。
さて,ここから平成15年の話から最近までの資料をもとに話を進めていきます。
平成28年秋田県警の公表資料によると,健康問題が秋田県内の自殺の原因で最も多く,自殺率が高い秋田であっても原因は全国動向と同じです。そしてその健康問題についてですが,あとで紹介する健康問題の内訳の資料では鬱が大きな割合を占めており,それは秋田県にも当てはまるでしょう。
http://www.police.pref.akita.jp/kenkei/toukei/gaiyou28.pdf
過去数年の傾向も同様で,ほとんど変化していません。
秋田県警のこちらのページから過去の資料についても見ることができます。このHPのスタイルが許されるのは2000年代初頭まででは?と若干イラっとした
秋田県警ホームページ
おそらく上位の他県についても同様に健康問題による自殺が多いものと考えられます。秋田が突出している理由はわかりませんが…健康問題=季節性鬱と考えることは難しく,なぜなら10月で最多になることから雪による日照激減が原因ではないと言えるためです。2月も多いことは多いですが,7月〜10月に多くなっていることを考えれば,雪による日照時間の減少が原因とは言いにくいです。
東北地方でも北部は自殺率が全国的に見ても高めですが,自殺者の年間推移を見てもやはり季節性鬱が原因とは言えません。ただ,全国動向と同じく健康問題で鬱が最も多いのであれば,なぜ鬱が引き起こされるのかという疑問が生じます。
全体的に日照時間が少ないことは否めませんが,それはランキング下位の他県についても言えるわけですから,何が要因なのかよく分からないですね。
日照時間のランキングはこちらです。2014年の日照時間を基にしたランキングですが,各地域の日照時間が年によって著しく変化するとは考えにくいので,概要把握のためならば例年のランキングと考えて問題ないでしょう。
http://grading.jpn.org/SRB02401.html:
秋田はなんと最下位で,他の東北地方も平均を下回っています。ランキング下位には平成15年の10万人あたりの死亡率が30%を超える県として紹介した宮崎以外の県が含まれています。
うーーーーん。季節性鬱の可能性を排除しつつありましたが,パッとこれを見るとなんとも言えませんね。自殺者の多い月又はそれ以前に日照時間がガクッと少なくなったなどの変化が分かれば,日照時間を鬱などの要因の一つにあげることができます。
ということで調べてみました。こちらが秋田県の月別日照時間。
気象庁|過去の気象データ検索
10万人あたりの死亡率で平均付近の福島県と比べてみます。
気象庁|過去の気象データ検索
比べてみると,秋田県は冬季に著しく日照時間が減少することが分かります。減り方もガクッと減ります。
しかし秋田県の自殺者は10月に最多になるわけです。ここでもまた日照時間の減少やそれが要因の一つとなる季節性鬱が自殺に大きく関与していないということが示されました。謎ですね…

ちなみに10万人あたりの死亡率が高いものの日照時間は平均を上回っている宮崎県の月別日照時間はこちらです。
気象庁|過去の気象データ検索

だいぶ話が脱線しましたので戻します。
健康問題が自殺原因の最多であるという話に関連して,少し古い資料ですが,健康問題による自殺者の詳細な内訳がありました。
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/jisatsu/16-2/dl/2-02.pdf
これをみると,まず鬱病が最も大きな割合を占めており,次いで身体の病気や精神疾病が来ています。
さらに,鬱病が自殺の原因・動機となっている事例において,ほぼ毎年同程度の割合で勤務問題が,また近年漸増しているものとして家庭問題があります。職場・家庭における問題により鬱病を発したのか,それとも何らかの原因で鬱病を発し,それにより職場・家庭において問題が発生したのかは分かりませんが,概ね予想通りな結果だとわかります。

自殺の動機

警察庁のページに詳しい統計がありました。これを見ると,最多原因は健康上の問題であり,その次に家庭問題や経済的要因が来ます。しかもこの3大原因は年次推移の中でも各年における割合が大きく変化していないことがわかります。そして,年齢階級別推移においても構成年齢階級の割合がほとんど変わっていません。
我が国を取り巻く自殺事情は改善されているのか不安になります。人数が数年連続で減少していることは良いことですが,若年層と働き盛りの年代の自殺に関しては早急に対応してもらいたいですね。一説によると鬱病関連の自殺者の多さにより,我が国は25.4億ドルの経済損失をしているそうです。OECDの2014年の報告書内にあるらしいのですが,読んでいませんので詳しくはわかりません。
自殺者数|警察庁Webサイト

人身事故

少し話は変わりますが,人身事故の統計をまとめているサイトがあります。
https://accident.laboneko.jp/ranking/route/2018
ここのデータを信用すると,2018年の現時点で1位は東北本線,2位3位は中央線の路線です。概ね目にする人身事故情報と一致しています。中央線は人身事故で頻繁に止まっているイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。
上位の多くは首都圏を通る路線です。人口が多ければ,それに伴い件数が増加するのはわかります。ところが,人口比率でみてみると、2位に奈良県が,3位には香川県が出てきます。これは件数に対して県の人口が少ないことによるものです。
ここでも東京は1位でしたが,事故件数は相当多いですね。東京や千葉,神奈川といった首都圏では20代の人身事故が多いということも特徴でしょう。ただ,これは酒に酔っぱらって転落したなどの場合もあるでしょうから,これをもって若者の自殺が多いとは言えません。
なお,飛び込みによる自殺について,自殺を意図した経験談をツイートしたものをまとめたページがありましたのでご紹介します。ただし,所詮ツイートなので信ぴょう性については不明です。このページにまとめられたツイート曰く,「鬱状態でホームにいると『魔が差して』フラッと飛び込もうとする」そうです。
駅での飛び込み自殺が多い理由とは…。実体験を綴ったツイートに共感の声 | BUZZmag

結局何の疑問にも答えてませんが今回はここまで。