ご注文は進捗ですか?

気になったことを結論が出ないまま置いたりしています。ときどき進捗も置く。

統合情報理論??

先日この本を読んだ。

意識を発生させる原因になる情報を数学的に捉えていて「ほおー」となっていた。

話の内容は大まかにこんな感じ。

意識

定義

睡眠に落ち、かつ夢を見ることがない場合に消えるもの。
(夢を見ないくらい深い眠りの時には無くなっていて、それ以外の時には存在するものが意識だといっていると思っておけば、まぁ大体OK)

重要な脳領域

著者は意識を発生させしめているのはどうやら視床-皮質系っぽいということが主張されている。意識はニューロンの数に影響されるものではないらしいのだ。
ここで、昏睡状態と植物状態の違いを述べる。医学的に厳密な説明は避けるが、植物状態では刺激に対する反応、つまり反射が見られる。一方で昏睡とは刺激に対する反応が見られない状態を指す。

統合情報理論

命題

「ある身体システムが情報を統合する能力を有する」⇒「意識がある」
全体を読んでも「身体システムが情報統合能力を有すること」が「意識がある」ための必要条件なのか、あるいは同値なのかは断定できなかった。
ここでは必要条件として話を進める。

公理系

公理1

意識は無数の可能性の存在により支えられている。ある意識の経験というのは、無数の可能性の選択肢を、独特の方法で排除した上で成立するものをいう。
したがって、単にon/off(0/1)を表現する装置は無数の選択肢から任意の1つの選択をしていないため意識を持ち得ない。

公理2

意識の経験は統合されたものである。
意識のどの状態も単一のものとして感じられる。故に意識の基盤も統合された単一のものでなければならない。
したがって、1bitの集合体は、個々の構成要素が0or1, on/offを表現しているに過ぎず、全体が統合された単一のものではないので意識を持ち得ない。

単位と演算

情報量をΦで表す。演算に関して、次のような原則がある。

  1. システムを分解し、ある部分に伝わる情報が他の部分にも届くか否か、またその逆も成り立つかを確認する。→独立要素の集合体(個々に0or1を表現する構成要素の集合体)と統合されたものを区別。
  2. 情報量の測定には、情報がシステムの構成要素によってどの程度共有されているのかを調べる。→情報の統合に関与する最小の核を特定。

小脳

先述の原則を踏まえれば、感覚を司る小脳における情報量は大きく、意識の発生に関与していてもおかしくない。しかし、実際には小脳は意識に関与していない。
これは小脳の構造によるものである。
小脳には半球を繋ぐ神経線維がなく、また各半球内において各部位を繋ぐ線維もない。つまり小脳は独立した構成要素から成る器官ということになる。したがって、脳の場合、公理2を満たしていないのである。故に命題は偽となるので小脳は意識を持たない。

意識の観測

「意識があるとはどういうことか」を命題に落とし込むことはできたが、そもそも意識をどのように観測するのかという問題が生じる。
意識は情報の統合を経るため、単に情報量や要素の数だけでは不足している(小脳のようなケースを除外しなければならないため)。
そこで次のような原則が必要になる。

  1. 脳のあるニューロングループAに対して刺激を与え、その影響がAとは異なるグループBに見られるのかを調べる(伝播性;範囲)
  2. 与えられた刺激に対して多くのニューロンが多様な反応を示す(多様性)
  3. 刺激は視床-皮質系ニューロンに与えなければならない(刺激のアクセス)→小脳は意識に組み込まれていないため
  4. 刺激への反応はミリ秒単位で測定しなければならない(時間スケール)

これらを踏まえて、脳の視床-皮質系ニューロンに刺激を与えたときに見られる、ミリ秒単位の反応の広がり(統合)や複雑さ(情報量)を指標とする。

観測手法

TMS(経頭蓋磁気刺激法)によって大脳皮質に刺激を与える。その刺激に対する反応の広がりや複雑さを脳波計でミリ秒単位で計測する。

結果

覚醒時は、刺激に対する反応は広がりと複雑さを示す。
睡眠時は、刺激を与えた箇所のみ反応し、反応に広がりが見られなかった。刺激を強くすると刺激の反応範囲が広がるが、波形は同一単調なものだった。これは、刺激が伝播したのではなく、単に強い刺激によって衝撃が大きかったというだけである。
覚醒時と睡眠時の結果から、睡眠時は統合も情報量も著しく低下している可能性が示唆された。

なぜ?

脳が睡眠時には覚醒時に比べて著しく鈍くなる背景にはカリウムイオンの存在がある。
そもそも電気信号はイオンによって伝達されるが、正のイオンがニューロン内に入るとニューロンの活動が活発になり、負のイオンがニューロン内に入るとその活動が鎮静化する。
覚醒時にはカリウムイオンK+のニューロン内の出入りのバランスが取れているが、睡眠時にはK+が出入りする出入口であるイオンチャネルが増え始める。そのため、ある箇所では多くのK+が進入し、逆にある場所では多くのK+がニューロン外に出るということが起こり、出入りのバランスが崩れる。バランスの崩壊は、K+が多く進入したニューロンは活発になり、K+が多く流出したニューロンは鎮静化するという活動レベルの2極化が発生する。これを双安定状態という。
活発なニューロンは周囲に自分の情報を「押し付ける」ようになる。一方の鎮静化したニューロンは周囲への十分な情報伝達をしなくなる。活発なニューロンによる押しつけ以外では周囲に伝達されにくくなる情報はモノトーンになり情報量は喪失される。さらに周囲に情報を伝えようとしないニューロンが発生するため情報統合の喪失も起きる。これが睡眠時に脳の刺激反応が鈍くなる理由だと著者は言う。
ところで、このようなリスキーな現象が毎晩発生するのはなぜなのか。どうやら脳の皮質回路をクリーン化するためらしい。よくわからん。

麻酔

全身麻酔によって意識を飛ばすことができる。このことによって外科手術の多くが患者の苦痛なしに行われていることは周知の通りである。
麻酔をかけられた人間の脳波を調べてみると睡眠時と同じ波形を示す。
麻酔薬のキセノンはK+チャネルを開く効果を有しているし、ミタゾラムやプロポフォールニューロンの活動レベルを抑制するためである。

終わり。
統合情報理論は賛否両論あるらしいが、こんな感じの論文も出ている。
www.riken.jp
www.pnas.org

ブラックさん家のホールさん

これ読んだ。

ブラックホールはイオン化炭素の故郷?

イオン化炭素→銀河内で星が誕生していることを示す→生まれたばかりの星がガスを加熱することで発生
活発なブラックホール付近にイオン化炭素が大量に含まれているのに星の誕生率が低い銀河がある→ブラックホールの活動,特に強力な放射線もイオン化炭素のガスを生み出しているのでは?
→ HE 1353-1917の観測から。この銀河はジェットを宇宙空間に吹き出すのではなく自身の中心部に向けて放出している
www.nasa.gov

ブラックホールが周囲の銀河における新星誕生に影響している

99億光年離れたところにある巨大銀河のブラックホールの観測→ジェットが100万光年ほど伸びている
このブラックホールから40万光年ほど離れたところにある4つの銀河に対して
・電波ジェット中のエネルギー粒子の相互作用により加熱されたガスのホットバブル(X線源)は周囲の銀河の冷たいガスにぶつかる
・その衝撃で冷たいガスが圧縮され星の形成が始まる
・同型の銀河に比べて2〜5倍ほど新星誕生率が高くなる

・ネガティブフィードバック
ブラックホールが星の形成を妨げること。銀河の熱いガスにブラックホールのジェットかれエネルギーが供給されるとガスが星の形成が始まるレベルまで冷えない。
・ポジティブフィードバック
今回の発見のように,ブラックホールが星の形成に貢献すること。
・以前の分析では,新星誕生率30%以下,又は2万〜5万光年適度のスケールでポジティブフィードバックが見られた。
→今回はそれを遥かに上回る規模のポジティブフィードバックを示唆する結果を得られた
www.nasa.gov

彗星46P/Wirtanenがダストや氷、ガスを出す映像を捉えた

こんな話をみた。論文はアブストラクトしか読めないが、NASAのサイトでは概要がある程度書いてある。
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ab564d

www.nasa.gov

・46P/Wirtanenがダスト・氷・ガス(彗星の尾)を出すところを捉えた
・彗星の尾が発生するメカニズムの詳細は、彗星表面が太陽光に晒されるために起こるとこれまで考えられてきたが不明だった
・46P/Wirtanenの尾の発生には明瞭な2段階のプロセス(1時間ほどの緩やかに明るくなり、その後8時間ほどさらに明るくなる)があった
・2段階目は彗星自身が放出したダストが太陽光を反射したために明るく見えたと考えられている
・観測データから約100万kgほどのダストが放出されたと概算されているが、この100万kgという数字は彗星に約20m級のクレータを作ることができるくらいの量
・尾の最高速度は800m/sに達した


今回はシンプルにまとめてみた

免疫システムと社会性行動の共進化

こんにちは。

マウスには社会性行動が見られることが知られています。そして情動障害を抱えたマウスにはこの社会性行動が見られなくなることはてんかん併発型精神障害への装薬検討の論文の回で紹介しました。
今回は、その社会性行動が免疫系とともに進化してきたのではないかというお話です。
www.nature.com
/*日本語要約版はこちら。
www.natureasia.com*/
英語版論文は課金しないと内容全てが見られないという仕様だったのでabstractのみを読みました。

マウスの社会性行動と精神障害のお話はこちらのエントリから論文に飛んでください。
make-a-progress.hatenadiary.jp

ということでいってみよー。

免疫機能に障害があると

免疫の機能障害は神経系機能や情動機能に何らかの不調をもたらすとされてきました。しかし、末梢の免疫が神経系に及ぼす影響の機構はその多くが謎に包まれたままでした。

ちょっと分かってきたこと

最近の研究で、髄膜の免疫系が空間学習や空間記憶に関係しているらしいことがわかりました。
そして獲得免疫に欠陥を抱えているマウスは社会性に欠陥を抱えているということや免疫の欠陥は前頭前皮質と深いつながりがあるということがわかってきました。(前頭前皮質は社会性行動を司る領域とされているので当然と言えば当然ですが…)

transcriptomesと社会性

マウスに代表される齧歯類の脳由来のtranscriptomesとT細胞由来のcytokineに対する細胞のtranscriptomesmの関連性は、社会性行動とIFN-γによる反応との強い相互作用を示しているということもわかってきました。
transcriptomesはある状況下において細胞にあるmRNAのことを言います。基本的にゲノムはどの器官でも同一なものですが、外部状況に呼応した時など特定の状況下において組織ごとに固有のゲノム構成をとることがあります。これをtranscriptomesと言います。
IFNにはα,β,γとあり、αとβが腫瘍細胞などに対する直接的な増殖抑制反応をとるのに対し、γは炎症反応に対する調節作用やα,βの増強作用を持ちます。
これらを踏まえた上で整理すると、齧歯類において、脳に由来する固有のゲノム構成と(T細胞由来の免疫作用を持つタンパク質)cytokineに対する細胞の固有のゲノム構成との関連性は、社会性行動とIFN-γによって引き起こされる反応との間に強い相互関係があることを示している、ということです。本来は同一なはずのゲノム構成が異なることがある、そしてその異なるゲノム構成同士の関係は社会性と免疫系により引き起こされる反応に関係性があることを示すものであると言っているわけですね。
そして抑制的ニューロンは社会性行動と投射ニューロンにおけるGABAergic(γ-アミノ酪酸)の量を増加させています。抑制的ニューロンは興奮を伝えるニューロンの出力を調整し過度な興奮を抑制する働きをしています。γ-アミノ酪酸は何かというと、これは抑制的ニューロンの伝達物質のことで、ニューロンの活動レベルを低下させる作用を有しています。*1*2

免疫システムと社会性活動の共進化

IFN-γシグナリングの作用を表す経路図(pathway)*3は社会性行動と効率的な免疫反応との共進化による関連を示します。免疫の作用を図示すると社会性行動と共進化を遂げてきたことが明らかになったわけです。
下図はT細胞受容体pathwayです。参考までに。中の人は見方がさっぱりわかりません。
www.kegg.jp
ただこの様な事例はマウスなどの齧歯類だけではなく、魚類やハエにも見られるもので、器官のtranscriptomesのメタ分析によってIFN-γやJAK-STAT*4に依存する遺伝子の発現頻度が上がったことが明らかになったそうです。

*1:bsd.neuroinf.jp

*2:bsd.neuroinf.jp

*3:array.cell-innovator.com

*4:IFNが受容体に結合することで連鎖的に活性化されて核に情報を伝える酵素のことみたいです。 www.pharm.or.jp

太陽風の神秘

こんにちは。
今日は久しぶりの宇宙の話についてです。
NASAからこんな発表がありました。
www.nasa.gov

今回はNASAの探査衛星が太陽に接近して剥がした太陽風の神秘を見ていきます。
ではいってみよー。

太陽風is何?

話に入る前に太陽風と宇宙天気について簡単に説明します。
太陽風とは太陽のコロナから放出されているガスのことをいい、主な構成要素は陽子と電子である。太陽風は電気を帯びたガス、つまりプラズマが超音速にまで加速された流れのこと。プラズマは太陽の磁力線を引っ張るので太陽風は電気のみならず磁力も有している。*1*2太陽風は太陽の自転によって横方向に回転する形で、つまりスプリンクラーのような形で放出されている。
宇宙天気とは、太陽活動によって生み出される様々な太陽風の動きのことをいう。よく知られたものとしては太陽風に伴う高エネルギー粒子線の影響で人工衛星に支障が出る現象が挙げられる。
太陽活動を解明し太陽風の動きを予想できるようになることは衛星運用やISSで活動する宇宙飛行士の安全のために重要なことである。

衛星Parker超接近

今回、NASAの太陽観測衛星Parker は太陽に約1500万マイルまで接近した。これは太陽と水星の距離(約1500万マイル)よりも太陽に近い。これだけの距離に接近した観測衛星はParkerが初めてであり、またこの時の速度は時速21万3000マイル、つまりおおよそ時速34万2800kmだった。これほど高速度で宇宙を旅した衛星は未だかつて存在していない。

明らかになったこと

Switchbacks

これは太陽風の磁気が反転する現象のこと。この現象は太陽と水星間でよく見られ数秒から数分続く現象だと考えられている。放出された磁力線がS字を描いており,太陽風の加熱・加速に関与してしているとされている。しかし,なぜこのような現象が起きるのかは分かっていない。そして,太陽風の乱流やプラズマが不安定になることで局所的に太陽の磁場・電場が変動するが,これまでの予想よりも大規模なものであるとされている。
この現象は太陽風の加熱・加速の機構を解明するヒントになるだけではなく、恒星がどのように活動し周囲の環境にどのように影響を与えているのかを解明する手掛かりになることが期待されている。

太陽の自転と太陽風

太陽の自転が太陽風に影響を与えており,プラズマ速度に驚くべき大きな方位角成分,つまり半径方向に垂直な速度が見られた。太陽風は太陽の自転に同調するようにして放出されており、太陽風の横方向の動き(砲丸投げのような感じで太陽風は放出されているということか?)は予想よりも強力で、横方向から直線方向に変化するまでも予想よりも早かった。太陽風の方向の変異点に対する理解は、どのように太陽の自転速度が時間の経過とともに遅くなるのかということを解明する鍵になる。

太陽風内のダスト

太陽から400万マイル程度の距離(!?)での観測によると、太陽風に含まれるダストは太陽から約700万マイル離れたあたりから薄くなっていくことが明らかとなった。このことは約1世紀にわたり理論的には唱えられてきたが、今回それが観測で裏付けられた事になる。そしてこのダストは太陽に近いと高温になりガス化し、太陽の周囲ではダストはガス化して無くなっていると考えられてきたが,今回はこのダストフリーな領域の存在を示唆する結果を得たことになる。ダストフリー領域の存在に関する詳細は来年に行われれる予定のParkerの6度目の接近観測で明らかになるだろう。

エネルギー粒子

観測によると、太陽から放出されるエネルギー粒子の痕跡は地球に届く前に無くなっていることが明らかになった。さらに重い元素において特に高い割合で粒子バーストが観測された。これらの太陽から放出されたエネルギーイオンや元素は太陽磁場に沿って動くため,移動速度の速い粒子と遅い粒子に対するParkerの捕捉時間の差を利用して粒子の軌跡の距離を見積もることができる。この軌跡は予想よりも長く,太陽磁場もより複雑であろうと考えられている。
太陽から放出されるエネルギー粒子は宇宙天気の大きな要因であるので、エネルギー粒子の放出について理解することは衛星で活動する宇宙飛行士をより安全下に置けるだけではなく、宇宙天気の観測にも重要である。

終わり。
今回の発見は、「太陽にめちゃくちゃ接近してみたら太陽風の磁気の反転とかダストの薄くなるところとか明らかになったよ」というお話です。一番近い恒星太陽、実はわからないことだらけだったり。

社会脳:自他の境界形成

こんにちは。
今回は意識に関して、社会は脳のどのネットワークに由来するのか、そして脳内にあるネットワークが自意識にどのように関わっているのかというお話。
「社会脳」という言葉を初めて聞きました…
今回の論文はこちら。
www.jstage.jst.go.jp
ではいってみよー。

意識のNCC問題

「意識のNCC(Neural Correlates of Consciousnesses )問題」とは、文字通り「意識の形成には脳内の特定領域が関与するのか」という問題のこと。
社会脳においては、意識とは「社会的意識形成を担う複雑なハブ的役割を果たすネットワークが相互作用することで生成されるもの」と考えている。
では「ハブ的役割を果たすネットワーク」とは何を指しているのか。それは次の2つのネットワークである。

  • 認知性ネットワーク:代表的なものにワーキング・メモリ・ネットワーク(WMN)
  • 社会性ネットワーク:代表的なものとしてデフォルト・メモリ・ネットワーク(DMN)

WMN・DMNについては次の項で説明する。

脳内ネットワーク

社会性ネットワークとしてのDMN

そもそもDMNはある目標のために意識的な活動をしていない状態で働いている脳のネットワークのことを指す。このDMNは主に脳の内側領域が連携して形成されている。脳の内側領域とは、内側前頭前野(MPFC)、後頭帯状回(PCC)、楔前部(Precuneus)、後部頭頂小葉(IPL)などがある。DMNを形成するこれらの領域は心の理論課題*1などで活性化する領域と重なっている。したがって、社会性ネットワークと名付けている。

認知性ネットワークとしてのWMN

WMNは、ある目標のために課題解決を行う際に働くネットワークのことである。DMNと異なり、目標志向的で、外部からの情報を得て、注意の焦点化などを意識的にコントロールするように働く。このネットワークは、背外側前頭前野(DLPFC)、前部帯状回(ACC)、後部頭頂葉(SPL/IPL)など主に脳の外部領域が連携することで形成される。

DMNとWMNは競合的な関係にあるが、その競合的作用が協調的にも働いている。

社会的意識の形成

社会的意識の形成には、DMN・WMN・背側注意(DAN)・顕著性(SN)・感覚運動・視覚・聴覚などのネットワークが競合・協調して社会性意識を形成している。
WMNは外部との情報のやり取りが伴うため、感覚運動や視覚、聴覚とはより協調的な関係にある。また顕著性はDMNとWMNを調整していること考えられている。

ヒト固有の意識

脳のネットワークから意識が発生する説明ではヒト固有の意識については説明し切れていない。そこでヒトに固有の意識において鍵となるのは、

  • WMNの再帰的機能
  • WMNからDMNへの大域的な再帰性
  • SNのような調整役

である。キーワードは「再帰性」ということになる。
自己の認識というのは「他者から見た自己」を通じてなされている。この対置関係により獲得される自己は再帰的自己というべきものである。他者を通じて自己を認識するとうことは自己意識、つまり自他の境界は他者を認識するところから形成されるということを意味している。したがって、前頭前野*2が未熟なためワーキング・メモリが十分に発達していない乳幼児は自己意識が希薄であると言える。

自他の境界

乳幼児から5歳児あたりまでの自己意識の発達についてみていく。
・2ヶ月くらいの乳幼児:自分の目の前で手を動かしそれを見るハンドリガードという行動をとる。これは動かした手が自分の身体の一部であるという認識(身体保持感)や自身の身体を自分で動かす運動主体感を身につけると同時に、自身と外部を分離する社会性認識の準備をしていると考えられている。
・〜2歳くらい:鏡に映る自分を自分だと認識する鏡像認知ができるようになる。
・3〜4歳:自己意識情動の芽生え。自己に対する「恥ずかしい」という情動を他者の目に映る自己を通じて感じるようになる。これが「再帰的自己」である。このように他者を通じて自己を再帰的に評価できるようになることで自身の行動をモニタリングできるようになる。そしてこのモニタリング機能がWMNへと発展していくのである。
・5歳くらい:心の理論課題や誤信念課題(False Belief Test:FBT)*3をクリアできるようになる。つまり、他者の心を類推して理解できるようになる。これは明確な自他の区別の始まりであり、この自他の区別がやがて社会の中で自己を位置付けることにつながっていく。自他の区別の始まりあたりまでは認知性ネットワークが社会性ネットワークに先行している。小児期は目標志向的に自他を区別していることになる。小児期は様々なものが新鮮で外部環境から多くのことを学習しているということを踏まえれば当然であろう。

志向的意識と社会性ネットワーク

他者の心を推定するDMN(心の理論ネットワーク)の水準としては次のようなものがある。

  • 1次志向性:「Xは、…と思う」→この程度であれば、再帰性が弱くても内容を理解することができる。
  • 2次志向性:「Xは、『Yが、…と考えている』と思う」→2次の場合、入れ子構造となり再帰性が必要になる。

3次以上の場合、入れ子構造がさらに深くなっていくので内容を理解するためにはWMNの再帰機能が必要になる。
つまり、1次であればDMNで対応できるが、2次以上の場合は入れ子構造になるため再帰性が必要になる。したがって、推定する他者の意識が1次ではDMNを、2次以上の場合はWMNの再帰性機能も動員していることになり、このことが2次以上では社会性ネットワークとしてのDMNを抑制していると言える。この抑制を切り替えと見ればDMNとWMNは協調的関係にあると捉えることもできる。
ちなみに成人の場合はワーキング・メモリの制約上、入れ子構造の情報を操作・保持できる次数は4が限界と言われている。

終わり。難しいこの分野…

*1:他者の心を類推し理解する能力を測るテストのこと。

*2:ワーキング・メモリを司る領域。社会的行動にも関与しているため、ヒトがヒトたるために不可欠な部位。 bsd.neuroinf.jp

*3:心の理論課題の1つ。他者の心や信念が自分のものと異なることを認識できるかを測るテスト。例えば、被験者に対して次のようなシチュエーションを設定して質問を投げる。Aが赤い箱におもちゃをしまい退室した後にBがそのおもちゃを赤い箱から隣にある青い箱に移した。そしてそのことを知らないAが部屋に戻ってきておもちゃを取り出そうとするとき、Aは赤の箱を開けるか青の箱を開けるか。これに赤と答えた時、被験者はAの状況を自身の中に投影できていると判断される。

視柄腺と生殖に関するホルモン

こんにちは。
今回もタコの話です。読んだ論文はこちら。
www.jstage.jst.go.jp

視柄腺については、タコの母性に関わっているらしいという話を『タコの教科書』で見ました。その時のエントリがこちら。
make-a-progress.hatenadiary.jp

で、今回の論文はその視柄腺とホルモンの関わりを調べたというところです。では。、いってみよー。

前提

タコなどの軟体動物の話に入る前に、脊椎動物の性成熟について見ておく。
脊椎動物の性成熟は視床下部-脳下垂体-性腺軸によって制御されている。視床下部から性腺刺激ホルモン放出ホルモン(Genadotropin)が分泌され、それが脳下垂体に作用し性腺刺激ホルモン(Genadotropion-Releasing Hormone:GnRH)が分泌される。例として卵胞刺激ホルモンや黄体形成ホルモンがある。そして、GnRHが性腺に作用して性ホルモンが分泌される。

メラトニンと生殖腺

鳥類においてメラトニンが性腺刺激ホルモン抑制ホルモン(Genadotropin Inhibitory Hormone)の産生を促進していることがわかっている。このメラトニンは光刺激によって産生が調節されており、光刺激が強ければメラトニンはより産生されるので性成熟は抑制される。

神経の構成

盲目と生殖器官の発達

タコを用いた光刺激と性成熟の制御に関する実験がWellsらによって行われており、その成果が1959年に発表されている。
未成熟の雌ダコの視索や視神経を切って盲目にしたところ、卵巣が切断前に比べると5週間で100倍近くに成長し体重比で1/500から1/50まで発達した。雄タコについても雌ほどではなかったがやはり生殖腺が発達した。
一方で視柄腺を切除すると雌雄ともに生殖腺の発達は見られなかった。そこで視柄腺は生殖腺の発達に関与しており、脊椎動物の脳下垂体に相当すると考えられた。
そこで、視柄腺と光刺激の関係を調べるために次のような実験を行った。
そこで4パターンの切断・除去を実験した。

4パターンの実験

実験ではタコを盲目にするにあたり、4通りの処置が取られた。

  1. 視索を脳と視柄腺の間で切る
  2. 視神経が到達する脳下脚葉という箇所を切除
  3. 視索を視柄腺と視葉の間で切る
  4. 視神経を視葉と眼球の間で切る

この結果、いずれのケースでも生殖腺の発達が見られた。
片側のみの切断であっても、視柄腺が切られた側でのみ発達し切られなかった側では変化がなかったことから、視柄腺の発達は神経性調節によるものと判明した。

神経の走り方

神経の走り方としては、視神経は視葉→視索→脳下脚葉に入る。この神経は視索から視柄腺に直接入らない。脳下脚葉から出る視柄腺神経は脳下脚葉→視索→視柄腺へと入る。よって、光刺激は視神経で受容したのち、視葉→視索→脳下脚葉に至り、光刺激により活性化された視柄腺神経を通じて視柄腺へと至る。そして刺激が強ければ生殖腺の発達は抑制される方向に働くということになる。
この視柄腺は星状細胞と支持細胞、そして密集した血管によって構成されている。星状細胞は成熟すると未成熟時の約10倍の大きさになる。この視柄腺は2つのシナプスを持っている。それが軸索間をつなぐシナプスと軸索と腺細胞をつなぐシナプスである。しかし、成熟すると軸索間をつなぐシナプスは消失することがわかっている。
これより、軸索間をつなぐシナプスによる成熟に抑制的な神経と軸索と腺細胞間をつなぐシナプスによる成熟を促進する神経の存在が示唆されたことになる。
また、活性化した視柄腺から抽出した成分を試験管内で卵巣に作用させると濾胞細胞においてタンパク質の合成を始めた。これによって視柄腺に由来する性腺刺激ホルモン放出ホルモンの存在が示唆されたことになる。

視柄腺を染色する

前提として、コウイカの視柄腺を支配する神経は、軟体動物によく見られるFMRFamideの抗体で染色可能であるという事実がある。

oct-GnRH

前提をもとに、Di Cosmoらはマダコを使って、FMRFamideの抗体とchicken GnRH-I抗体を用いて視柄腺と視柄腺を制御する領域を免疫染色した。
その結果、FRMFamideに対しては、陽性反応を示した細胞が脳下脚葉に存在し、視柄腺神経に陽性シグナルが見られた。FRMFamideはカイコの脱皮ホルモンの合成を抑制することがわかっている、いわば抑制に働く物質である。*1
一方、chicken GnRH-I抗体に対しては、陽性反応を示した神経は後嗅葉から視柄腺にかけて見られ、腺細胞周辺に神経終末があった。
以上の結果から、視柄腺はFMRFamide抗体に陽性を示す神経とchicken GnRH-I抗体に陽性を示す神経によって二重の支配を受けていることがわかった。
著者らはテナガダコとマダコを使って、脳に含まれる活性ペプチドを調査した。その結果、心拍の増強に顕著な活性を示すペプチドは脊椎動物のGnRH構造に共通している特徴を有していることがわかった。
タコは12残基のペプチドを有していて、著者らはこれをoct-GnRHと名付けた。このoct-GnRHの前駆体は脊椎動物のGnRH前駆体と構造が同じであった。
そこでこのoct-GnRHに対して免疫組織化学による観察並びにin situ hybridization実験を行った。免疫組織化学による観察では、脳下脚葉に陽性の繊維と細胞が存在し、視索にも陽性を示す神経が密に見られた。これは脳下脚葉から視索にかけてoct-GnRHが存在することを意味し、脳下脚葉においてこのホルモンが分泌されている可能性を示唆している。in situ hybridization実験では前駆体mRNAの発現を示す細胞体が脳下脚葉に見られた。
また、oct-GnRHは卵管と卵管球にも陽性反応を示す神経が存在しており、卵管の自動収縮を増大している。
この様に脳下脚葉などから分泌されている感じがしていたのだが、視柄腺を見てみると星状細胞の細胞質内にもoct-GnRHが見られた。これはoct-GnRHが視柄腺によって分泌されている可能性を示している。
が、しかし、この問題もタコの細胞構造を考えると解決しそうである。というのも、タコの星状細胞には粗面小胞体や分泌小胞がない。そして、観察によって、oct-GnRHは細胞内に取り込まれたのち、蓄積されてやがて血液中に放出されることが明らかになっている。この事実からoct-GnRHは星状細胞内で分泌されたものではないと言えそうである。
Di Cosmoらによると、雌雄のマダコの生殖腺には、プロゲステロンや17β- エストラジオール、テストステロン、性ホルモン結合タンパク質などが存在していることが明らかにされている。プロゲステロンは雌の貯精嚢内の精子を活性化する役割を持っているとされており、また精子の先体反応を誘導していると考えられている。この貯精嚢周辺においてもoct-GnRHの陽性反応が検出されている。

結論

これらの観察と実験を踏まえると、生殖腺の成熟には脳下脚葉-視柄腺-生殖腺/後嗅葉-視柄腺-生殖腺のラインが脊椎動物でいう視床下部-脳下垂体-生殖腺のラインと同様の役割を果たしており、oct-GnRHはこのラインにおいて重要なホルモンであることがわかる。
特に脳下脚葉へ強い光刺激が需要されると視柄腺に抑制的な働きを引き起こさせ、生殖腺の発達が抑制されるということでした。性成熟の抑制に視柄腺が関与しているのならば交接後のメスの視柄腺を除去すると交接前(成熟前)と同様の行動を取る様になるということも納得が行きますね。