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統合情報理論??

先日この本を読んだ。

意識を発生させる原因になる情報を数学的に捉えていて「ほおー」となっていた。

話の内容は大まかにこんな感じ。

意識

定義

睡眠に落ち、かつ夢を見ることがない場合に消えるもの。
(夢を見ないくらい深い眠りの時には無くなっていて、それ以外の時には存在するものが意識だといっていると思っておけば、まぁ大体OK)

重要な脳領域

著者は意識を発生させしめているのはどうやら視床-皮質系っぽいということが主張されている。意識はニューロンの数に影響されるものではないらしいのだ。
ここで、昏睡状態と植物状態の違いを述べる。医学的に厳密な説明は避けるが、植物状態では刺激に対する反応、つまり反射が見られる。一方で昏睡とは刺激に対する反応が見られない状態を指す。

統合情報理論

命題

「ある身体システムが情報を統合する能力を有する」⇒「意識がある」
全体を読んでも「身体システムが情報統合能力を有すること」が「意識がある」ための必要条件なのか、あるいは同値なのかは断定できなかった。
ここでは必要条件として話を進める。

公理系

公理1

意識は無数の可能性の存在により支えられている。ある意識の経験というのは、無数の可能性の選択肢を、独特の方法で排除した上で成立するものをいう。
したがって、単にon/off(0/1)を表現する装置は無数の選択肢から任意の1つの選択をしていないため意識を持ち得ない。

公理2

意識の経験は統合されたものである。
意識のどの状態も単一のものとして感じられる。故に意識の基盤も統合された単一のものでなければならない。
したがって、1bitの集合体は、個々の構成要素が0or1, on/offを表現しているに過ぎず、全体が統合された単一のものではないので意識を持ち得ない。

単位と演算

情報量をΦで表す。演算に関して、次のような原則がある。

  1. システムを分解し、ある部分に伝わる情報が他の部分にも届くか否か、またその逆も成り立つかを確認する。→独立要素の集合体(個々に0or1を表現する構成要素の集合体)と統合されたものを区別。
  2. 情報量の測定には、情報がシステムの構成要素によってどの程度共有されているのかを調べる。→情報の統合に関与する最小の核を特定。

小脳

先述の原則を踏まえれば、感覚を司る小脳における情報量は大きく、意識の発生に関与していてもおかしくない。しかし、実際には小脳は意識に関与していない。
これは小脳の構造によるものである。
小脳には半球を繋ぐ神経線維がなく、また各半球内において各部位を繋ぐ線維もない。つまり小脳は独立した構成要素から成る器官ということになる。したがって、脳の場合、公理2を満たしていないのである。故に命題は偽となるので小脳は意識を持たない。

意識の観測

「意識があるとはどういうことか」を命題に落とし込むことはできたが、そもそも意識をどのように観測するのかという問題が生じる。
意識は情報の統合を経るため、単に情報量や要素の数だけでは不足している(小脳のようなケースを除外しなければならないため)。
そこで次のような原則が必要になる。

  1. 脳のあるニューロングループAに対して刺激を与え、その影響がAとは異なるグループBに見られるのかを調べる(伝播性;範囲)
  2. 与えられた刺激に対して多くのニューロンが多様な反応を示す(多様性)
  3. 刺激は視床-皮質系ニューロンに与えなければならない(刺激のアクセス)→小脳は意識に組み込まれていないため
  4. 刺激への反応はミリ秒単位で測定しなければならない(時間スケール)

これらを踏まえて、脳の視床-皮質系ニューロンに刺激を与えたときに見られる、ミリ秒単位の反応の広がり(統合)や複雑さ(情報量)を指標とする。

観測手法

TMS(経頭蓋磁気刺激法)によって大脳皮質に刺激を与える。その刺激に対する反応の広がりや複雑さを脳波計でミリ秒単位で計測する。

結果

覚醒時は、刺激に対する反応は広がりと複雑さを示す。
睡眠時は、刺激を与えた箇所のみ反応し、反応に広がりが見られなかった。刺激を強くすると刺激の反応範囲が広がるが、波形は同一単調なものだった。これは、刺激が伝播したのではなく、単に強い刺激によって衝撃が大きかったというだけである。
覚醒時と睡眠時の結果から、睡眠時は統合も情報量も著しく低下している可能性が示唆された。

なぜ?

脳が睡眠時には覚醒時に比べて著しく鈍くなる背景にはカリウムイオンの存在がある。
そもそも電気信号はイオンによって伝達されるが、正のイオンがニューロン内に入るとニューロンの活動が活発になり、負のイオンがニューロン内に入るとその活動が鎮静化する。
覚醒時にはカリウムイオンK+のニューロン内の出入りのバランスが取れているが、睡眠時にはK+が出入りする出入口であるイオンチャネルが増え始める。そのため、ある箇所では多くのK+が進入し、逆にある場所では多くのK+がニューロン外に出るということが起こり、出入りのバランスが崩れる。バランスの崩壊は、K+が多く進入したニューロンは活発になり、K+が多く流出したニューロンは鎮静化するという活動レベルの2極化が発生する。これを双安定状態という。
活発なニューロンは周囲に自分の情報を「押し付ける」ようになる。一方の鎮静化したニューロンは周囲への十分な情報伝達をしなくなる。活発なニューロンによる押しつけ以外では周囲に伝達されにくくなる情報はモノトーンになり情報量は喪失される。さらに周囲に情報を伝えようとしないニューロンが発生するため情報統合の喪失も起きる。これが睡眠時に脳の刺激反応が鈍くなる理由だと著者は言う。
ところで、このようなリスキーな現象が毎晩発生するのはなぜなのか。どうやら脳の皮質回路をクリーン化するためらしい。よくわからん。

麻酔

全身麻酔によって意識を飛ばすことができる。このことによって外科手術の多くが患者の苦痛なしに行われていることは周知の通りである。
麻酔をかけられた人間の脳波を調べてみると睡眠時と同じ波形を示す。
麻酔薬のキセノンはK+チャネルを開く効果を有しているし、ミタゾラムやプロポフォールニューロンの活動レベルを抑制するためである。

終わり。
統合情報理論は賛否両論あるらしいが、こんな感じの論文も出ている。
www.riken.jp
www.pnas.org