文学は社会的能力を高める?
今回は文学作品の読解が社会的能力を高めるという話。
www.jstage.jst.go.jp
今回の実験は小説読解による社会的能力への効果は、言語課題にのみ効果があるのか(近転移)、非言語課題にも及ぶ(遠転移)のかを調査した。
方法
実験
実験は次の流れで行う。
- pre-test(1日目午前)
- training session 1(1日目午後)
- training session 2(2日目午前)
- post-test(2日目午後)
- follow-up test(ひと月後)
pre-test
strange story課題(言語を用いた心の理論課題)とanimation課題(図形を用いた心の理論課題)を行う。
training session 2
session 1と同じことを、トレーニングの素材を変えて行う。
post-test
pre-testとは異なるstrange story課題とanimation課題を行う。
follow-up test
strange story課題とanimation課題を行う。
strange story課題
- 文章を読みその後提示される問題に答える。
- 文章を1文ずつ提示される。
- 文章は3種類ー(a)心的状態に関連するstory8文、(b)動物に関連するstory8文、(c)関連のない文章8文ーである。
- 課題の得点を従属変数として、training(小説/論説)を参加者間要因、testの時期(pre/post/follow-up)を参加者内要因として分散分析を行う。→剰余変数(参加者個人の差異やtest条件の相異)の統制
animation課題
- 2つの図形が動く映像ー心的状態を表すToM、目的志向を表すGoal Direction、ランダムーを見て、その内容を記述する。
- 心的状態に言及するほど高得点を与える。
- 課題の得点を従属変数とする。その後はstrange story課題のときと同じ。
結果(strange story課題)
心的状態に関するstory
小説読解を行った実験群はtrainingとtestの有意な相互作用によりpre-testからpost-test/follow-up testの成績が向上した。
post-testとfollow-up testには有意差は見られず。
動物に関するstory
実験群はtrainingとtestの有意な相互作用によりpre-testからpost-test/follow-up testの成績が向上した。
post-testとfollow-up testには有意差は見られず。
関連のない文章
全ての主効果、相互作用において有意な差は見られなかった。
結果(animation課題)
映像の種類の種効果のみで有意な差が見られた。
最も心的状態への言及が多いToMにおいては、pre-testとpost-test/follow-up testには有意差は見られず。
考察
実験群においてstrange story課題では心情理解の得点が向上し、animation課題ではそのような結果を得られなかった。つまり、近転移のみが見られたということである。
さらにfollow-up testにおいても有意な成績向上が見られたことから、実験群では社会的能力の向上が長期的に見られることが明らかとなった。
動物に関するstoryについて
実験群では動物に関するstoryの成績も向上している。これは心情理解が人間のみならず動物にまで及んでいるということを示唆する。このような生物性の知覚は社会的能力の基盤である。
実験の結果、strange story課題では有意な成績向上があったもののanimation課題では有意な違いを得られなかった。これは言語領域と非言語領域がある生物性の知覚領域のうち、言語領域にのみ小説読解のtrainingが効果を与えたということを示唆している。
木星の南極に6つ目の嵐発見
木星の南極付近に6つ目の嵐を発見
www.nasa.gov
元々は5つの嵐が中央の1つを囲むように五角形状に存在。
木星探査衛星Junoが2019年11月3日の22回目の接近によって撮影した映像には6つ目の新たな嵐の発生が確認された。
中央の嵐はアメリカ(アラスカ除く)に相当する大きさで,新たに発生したものはテキサスに相当する大きさである。ただし今後他の5つと同等程度に大きく発達する可能性がある。
Juno's Jovian Infrared Auroral Mapper (JIRAM)を使って木星の上層から50-70キロ程度の大気の観測を行ったところ,木星深部からの赤外線を検知した。この事実は6番目の嵐の平均風速が時速362キロであることを示唆している。
なお今回の発見はJunoが木星の影から無事に脱出できたためになされた奇跡である。
Junoは2016年7月4日に53日かけて周回する軌道に投入された。オペレーションチームは木星への接近周回を14日おきに行うつもりだったので,53日の周回軌道に投入した数ヶ月後には周回軌道を小さくする予定だった。
ただ,Junoに常に太陽光を供給できるようにするためには長いとは言え53日の周回軌道にせざるを得なかった。
そして木星周回軌道に入ってからも常に太陽光を受けられるようにしていたのだが,あるとき12時間にわたって木星の影に入ることになった。
太陽光を受けてシステムにエネルギーを供給しているので太陽光が遮断されるとシステムが文字通り死ぬ。そのためエンジニアたちはjump the shadowと称して影から脱出するオペを行いそして軌道修正に成功した。これによってシステムは凍死を免れ今も接近周回ができている。
渦巻型銀河の形成
渦巻型銀河の形成
磁場が新星が数多くある腕に沿って流線型に存在
→重力が銀河内の物質のみならず磁場にも影響している(磁場が歪められている)
ex. M77
鯨座方向に4700万光年離れた渦巻型銀河でその中心部のブラックホールは銀河系のそれの2倍ほどの質量がある。
SOFIAの最新機器を用いたところ,磁場が腕に沿って流線型にあることが観測された。磁場は直径24000光年の巨大な腕に沿うように存在する。
この事実は,density wave theory*1を支持するものであり,どのように渦巻型銀河の渦巻が形成されるのかを解明する鍵になる。
今回の結果は遠赤外線(89ミクロン)で磁場対して垂直に存在する銀河のダスト粒子を捉え,それを基にして磁場の形や方向を推測して得られたものである。
このように遠赤外線による観測は非常に有用だが,これは遠赤外線が散乱した可視光や高エネルギー粒子による電波等によってかき乱されることがないためである。
人間はうつになりやすく進化したことがある???
今回はびっくりニュースです。
人間の進化の過程において鬱傾向の方向へ向かったことがあるということが示唆されたトいうのです。
今回の主役は性格や個性に影響を与えるVMAT1*1*2で、人間の進化の過程の中でこの遺伝子の変異がうつ傾向への進化に関係してきます。
概要
- 人類の進化の過程で生じたと考えられる5つのVMAT1タンパク質を再現し,神経伝達物質の取り込みを比較。
- 取り込みの低下を確認したことでVMAT1遺伝子の機能的変化を示し進化の過程で鬱になりやすい方向に進化した可能性が示唆された。
これまでの研究
- 人類の進化初期にVMAT1遺伝子の
130番目 グルタミン酸(Glu)→グリシン(Gly)
136番目 アスパラギン(Asn)→スレオニン(Thr)
へ進化したことがわかっている。ただし,この変異がVMAT1タンパク質の神経伝達物質取り込みに与えた影響は不明。
- さらに,現代人のなかには,
136番目 イソロイシン(Ile)
のタイプの人間がいる。Thr型の方がIle型に比べて鬱や不安傾向が強い。先行研究によると,Thr型はIle型より神経伝達物質の取り込み能力が低い。
今回
ピンクノイズのお話。
今回は騒音とピンクノイズ の話。
読んだ論文はこちら。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/61/7/61_KJ00003470145/_pdf/-char/ja
ではいってみよー。
ピンクノイズ とは
カラードノイズの1種でパワーが周波数に反比例する音のこと。同じ周波数での光はピンク色に見えることからこの名前で呼ばれている。1/fノイズと呼ばれることもある。
実験の概要
これまでの研究
これまでの研究で、記憶精神作業中において、無意味雑音は時間平均音圧レベル*1の低下とともに「うるさい」という心理的印象も低減されるが、有意味雑音は心理的印象がそれほど改善しなかった。
この結果から、有意味雑音を無意味雑音でマスキングすれば「うるささ」を改善できるのではないかという発想に至る。
そこで有意味雑音を無意味雑音でマスキングしてみたところ、心理的印象の改善と課題作業の成績向上において効果が見られた。ただし、この実験ではマスキング音は無意味定常雑音であるピンクノイズ に限定されており、有意味雑音のBGMや変動性無意味雑音でのマスキングの効果は検討されていなかった。
今回の実験
今回は主に2つの実験からなる。まず、有意味雑音をピンクノイズ や変動音でマスキングしたときの効果を測定し、次に、マスキング音を無意味雑音に限定して変動音の影響を検討する。
実験1:有意味雑音をピンクノイズや変動音でマスキングorマスキングなし
課題作業をする際に、音声雑音を有意味雑音のBGMでマスキングした場合と無意味雑音のピンクノイズ でマスキングした場合を比較する。音声雑音はある講演から拍手や効果音、音楽を除去したものを40dBにしたものである。マスキング音は、ピンクノイズ は176.75Hz~5656Hzのものを、BGMは歌詞のないものでゆったりとした感じのものと激しい感じのものの2種類を、それぞれ34dB,37dB,40dBの3段階用意した。この3段階はS/N比*2が順に6,3,0である。
これらのノイズでマスキングした場合とマスキングをしなかった場合の「うるささ」に関する心理的印象を探った。
この実験における課題は3つの数字の加減演算で、聴覚または視覚によって数字と演算符号が伝達される。1秒ごとに1文字を伝達し解答時間に10秒とる15秒1セットの課題を5分間連続で行った。
結果
心理的印象については「音(音声雑音とマスキング音)のうるささについてどのように感じたか」を「F1:全く気にならない・F2:気にならない・F3:あまり気にならず・F4:少しうるさい・F5:うるさい・F6:かなりうるさい・F7:非常にうるさい」の7段階の中から排他的選択をさせた。加えて、「音声雑音は気になったか」をYes or Noで回答させた。
その結果、
- ピンクノイズ でマスキングした場合としなかった場合
有意水準1%で視覚・聴覚による伝達にともに有意差が見られた。よって、ピンクノイズ でのマスキングには効果があったことがわかった。(下画像)
特にS/N比が3dBのケースで心理的印象が1カテゴリ以上改善した。
- BGMでマスキングした場合としなかった場合
聴覚による伝達の場合にはS/N比3dBのときに有意水準1%で有意差が見られたが、それ以外では心理的印象が改善することはなかった。これより、BGMでは印象の改善は難しいことが明らかになった。
この実験における課題の成績は非常に高いものであったが(計算を高い正解率で回答した)、このことが直ちにマスキングによる効果であるとはいえない。一方で、マスキングしたことで成績が下がったわけでもないことには注意。
下画像の赤線は中の人が加えた。
実験2:マスキング音を変動性を持たせたピンクノイズに限定or定常のピンクノイズ
先の実験1でS/N比3dBが有効なマスキングではないかということを示唆する結果を得た。そこで、無意味定常雑音であるピンクノイズ に変動幅を持たせてマスキングに用いた。 標準偏差σ=3である37dBのピンクノイズの他に、σ =5,7のピンクノイズ も用意した。なお、最大音圧レベルは、σ=3で42.0dB,σ=5で44.2dB,σ=7で46.3dBである。
手法は実験1と同じである。
結果
心理的印象については、
- σ=0の場合(定常のピンクノイズの場合)とσ=3,5,7の場合
σ=3,5,7いずれもσ=0の場合と比べて、有意水準1%で有意差があった。
- σ=3,5,7について
聴覚による伝達では、σ=3とσ=5の場合並びにσ=5とσ=7の場合に有意水準1%で有意差が見られた。σが大きくなるほど、つまり、signal音40dBとの違いが大きいマスキング音ほど心理的印象が悪化し「音声雑音がうるさい」と感じるようになった。これは標準偏差σが大きくなるにつれてS/N比の変動も大きくなることが原因であると考えられている。signalの音声雑音とマスキング音のS/N比が小さい時は音声ノイズが減殺されマスキング効果があるが、S/N比が大きくなるとsignalの音声雑音に対して十分なマスキングができない(いわばマスキング音が負けている)状態になり、signalがよく聴こえてきてしまう。これが心理的印象の悪化につながったと言える。
視覚による伝達の場合では、σ=5とσ=7の場合に有意水準5%で有意差が見られた。
終わり
この実験が示唆していることは、雑音を効果的に減殺するのであれば、無意味定常雑音であるピンクノイズ を減殺したい雑音とのS/N比がなるべく小さくなる様に設定するということである。
音の変動性が高いと「うるさい」と感じやすくなるというのは、見ていた動画が暗転し画面に自分の顔が映って萎えたというのと同じ様な現象であるなという感想を抱きました。
*1:単位dBで表される。 audiology-japan.jp
*2:signal-Noise ratioのこと。今回の場合、有意味雑音がSignalに、マスキング音がNoiseになる。 pabasic.com
アルツハイマーの話・続編
こんにちは。
前回、アルツハイマー患者の脳にはタウとよばれるタンパク質の異常な凝集が見られるという話を紹介しました。
ただ、前回は知らない言葉がたくさん登場したので今回はそこら辺を調べてみました。
make-a-progress.hatenadiary.jp
そもそも
アルツハイマー患者の脳
アルツハイマー患者の脳には老人斑という「シミ」とタウ・タンパク質の凝集によるNFTsが見られる。また、アルツハイマーの機序としては、アミロイドβが沈着するアミロイド病理→タウ病理→神経細胞死という流れがある。
アミロイドβ
高い集積性を示し、凝集すると神経毒性を示す。沈着すると老人斑と呼ばれるシミを形成する。認知症の最初期の特徴である。
bsd.neuroinf.jp
アルツハイマーの機序
大きく分けて3つのフェーズ:アミロイド病理→タウ病理→神経細胞死が存在していると考えられている。このような3段階のフェーズがあるとする仮説を「アミロイドカスケード仮説」という。
細胞外にある可溶性アミロイドβが増加しプラーク(不溶性の老人斑)を形成する。それにより、タウ・タンパク質の異常リン酸化が誘導される。
可溶性のタウは異常リン酸化したことで微小管から遊離する。そして軸索からスパインに転移してSrcチロシンキナーゼ*2であるfynと相互作用しfynをスパインに局在させる。こうして高濃度化したfynは活性化し、興奮性NMDA受容体*3GluN2Bをリン酸化して安定化する。
これによって、グルタミン酸シグナル伝達が増幅し、細胞内へのカルシウムイオンの流入が増加する。これによってアミロイドβの毒性が増加する。カルシウムによって誘導されたこの毒性はシナプス後部にダメージを与えて、細胞死を生じさせる。
老人斑とNFTsは不溶性で高密度に繊維化し、神経細胞にダメージを与えて細胞死を引き起こす。
www.riken.jp
www.riken.jp
www.abcam.co.jp
ここまでの流れをざっくりまとめると、アミロイドβが増える→タウが軸索からスパインに移動→リン酸化作用を持つfynをスパイン内に増加させる→ニューロンを興奮させるNMDA受容体をリン酸化する→興奮してシグナル伝達が増大しCa2+が細胞内に流入→アミロイドβの神経毒性増加
という感じ。
アルツハイマー?
アルツハイマーについて
ネズミを使って実験
脳の糖分消費量・神経細胞の活動率・マウスがどれくらいの時間寝るか
ここでいうメタボリズムとは「代謝」のことを指す。
・グルコース注射(脳に変化をもたらすため)
→メタボリズムの加速・神経細胞活動の高まり・より長い時間起きていた
・インスリン注射(血糖値を下げるため)
→より高い神経活動とより長く起きて活動
アルツハイマーの兆候として知られる2つのうち1つを遺伝子操作で発現させたマウスの分析
・神経細胞中にアミロイドβタンパク質の固まりを持つ個体群
・tauというタンパク質を神経細胞中に持つ個体群
いずれの個体群も高い血糖値と低い血糖値に異常な反応
→脳内のタンパク質がアミロイドかtau(アルツハイマーに関係のあるタンパク質)かによる
アミロイドβ→高い血糖値下で脳のメタボリズムわずかに上がる
tau→高い血糖値下でメタボリズムは上がらない
いずれのケースも,神経細胞の活動は血糖に対して大きな反応をもはや返さなくなった
アミロイドβの場合もtauの場合も覚醒〜睡眠のサイクルに影響を与えているようである
アルツハイマーは日中の覚醒を司る脳の領域を破壊する?
・睡眠障害はアルツハイマー含む認知症の「一部」であって,もはや兆候ではない
・脳幹と視床下部は覚醒と注意力を司る
・通常であれば脳幹と視床下部にある3つの小領域はいずれも日中の覚醒を司る神経細胞が含まれている
・ところがアルツハイマー病で亡くなった人間の場合はtauが詰まっていた
・さらに3つのうち2つの領域では70%以上の神経細胞又はニューロンがなくなっていた
・アルツハイマー病の人間が夜に寝ているのに日中疲れを感じる理由の一つはtauによる脳構造の変異
・進行性の核上麻痺や皮質基底の変異などはtauを蓄積させる
しかし,tauが蓄積されていたにもかかわらず,このような脳構造変異で亡くなった人間の死んだニューロンは少なかった
→「アルツハイマー病の場合はなぜニューロンが多く死ぬのか?」は現在研究中
www.sciencenews.org